非連載の特別寄稿論文

世の中は天才を求めている──25歳のオタクから億万長者に

 世の中は天才を求めている。誰でも解決ができず、または誰でも考えたことのなく、社会で求めるソリューションをいち早く考え、発明した天才を求めている。
 アップル社の創業者スティーブ・ジョブズが知られる人物である。マイクロコンピューター Apple I、Apple Ⅱ、Macintosh(マッキントッシュ)、iPod、iPad、iPhoneなどを次々と開発したことで知られている。ジョブズは典型的な天才であり、既に多くの書物で紹介されるので、ここでは詳しく紹介しない。
 小稿は日本ではあまり知られていなく、新しく億万長者に登場した若年25歳の創業者に焦点を浴びたい。

Luminarの25歳の創業者が億万長者に

 12月3日、アメリカ・ナスダック市場でLuminar Technologies(ルミナー)の株が上場し、久しぶりの注目が集まった。翌日に40%近く株価が上昇し、後の4日間で株価が100%以上に高騰した。株価が10倍に上昇することを「テンバガー銘柄」と呼ばれ、Luminarはまさにテンバガー銘柄である。25歳の創業者オースティン・ラッセル(Austin Russell)は、一夜にしてオタクからビリオネア(億万長者)になった。
 創業者のラッセルは2歳で元素周期表の暗記ができ、12歳で任天堂のゲーム機を携帯電話に改造した。この幼児時期から“天才”と言われ、才能を発揮した。16歳でLuminar社を立ち上げた。高校時代にカリフォルニア大学アーバイン校のベックマンレーザー研究所で拡大現実(AR)、ワイヤレス給電のプロジェクトに関わった。この経験から3D画像技術の開発に従事し、「3D画像撮影設備」の特許を獲得するようになった。高校卒業後、スタンフォード大学で学んだ物理学の知識を生かし、低価格で利用できる光を用いたリモートセンシング技術の「LiDAR」(ライダー)を開発した。
 2013年、PayPal(ペルパル)の創業者ビーター・ティールから10万ドルの資金を得た。ティール氏の説得があって、ラッセルは大学を中退し、事業に専念するようになった。その後、累積2億5000万ドルの資金を調達することができた。
 ラッセルはハンサムで髭を生やしている。見た目では25歳の様子でない。髭を残した方が、恐らく年功を積んで円熟に見え、創業資金の調達がしやすいと考えられた。
 ラッセルは自ら開発した「LiDAR」について、「我々が開発したLiDARは競合製品に比べて解像度は50倍、測定距離は10倍も優れている。自動運転車の安全基準を満たす唯一の製品」と鼻高く自慢している。
「LiDAR」の測定距離は200メートルで、他社の競合製品の測定距離はわずか35メートルという製品の強みがある。そのために、高速道路で自動車が走っていて、従来の競合製品の場合、前方に障害物を判断する猶予の時間は約1秒間である。「LiDAR」を搭載した場合、その猶予の時間は約7秒間が得られる。
多くの競合製品の素材はシリコンを使っているが、「LiDAR」はインジウムガリウムヒ化物を素材にしている。また、競合製品の多くが波長905nm(ナノメートル)のレーザーを使用し、「LiDAR」は出力パワーが40倍の波長1550nmを使用している。
 Luminarの技術に大いに評価したいくつかの企業は、LiDARの供給の契約締結を行っている。インテル傘下のMobileye社は、LuminarからLiDARを供給してもらうサプライヤーの契約を締結した。Mobileyeは自動運転やADAS向け画像処理チップの製造企業である。
 2020年5月、スウェーデンの自動車大手のボルボ・カーズ社はLuminarと提携し、次世代ボルボ車にLiDARを搭載する。トヨタ自動車もLiDARに着目している。
 この天才創業者の誕生で、市場が沸いている。読者の皆様もLuminarの株を買いませんか?

寄稿コラム:著者略歴

朝元照雄(あさもと・てるお)
1950年生まれ。筑波大学大学院社会科学研究科博士課程修了・博士(経済学)。株式日立製作所技術部主任・副参事、ハーバード大学フェアバンク東アジア研究センター客員研究員、九州産業大学経済学部教授・同大学院経済・ビジネス研究科教授を経て、現在は九州産業大学名誉教授。
主著は『現代台湾経済分析』(勁草書房、1996年)、『台湾経済論』(共編、勁草書房、1999年)、『台湾の経済開発政策』(共編、勁草書房、2001年)、『台湾の産業政策』(共編、勁草書房、2003年)、『開発経済学と台湾の経験』(勁草書房、2004年)、『台湾農業経済論』(共著、税務経理協会、2006年)、『台湾経済入門』(共編、勁草書房、2007年)、『台湾経済読本』(共編、勁草書房、2010年)、『台湾の経済発展』(勁草書房、2011年)、『台湾の企業戦略』(勁草書房、2014年)、『台灣産業的轉型與創新』(共著・中国語、台灣大學出版中心、2016年)、『台湾企業の発展戦略』(勁草書房、2016年)、『発展する台湾企業』(勁草書房、2018年)、『台湾の企業研究』(共編、九州大学出版会、2020年)など。