2020年11月17日、アメリカ国務省政策企画本部は研究報告「中国挑戦の要素」(The Elements of the China Challenge)を発表した。
この研究報告は中国共産党(CCP)の今までに行為を統括し、これらの行為の背後の思想の根源とCCP政権が直面する脆弱性を分析した。このような中国からの厳しい挑戦に如何にして対応するか、一つの青写真を描いた。ドナルド・トランプ政権による対中政策の転換の一環として、マイク・ポンペオ米国務長官の指示により作成されたと言われている。
この報告書ではCCP政権を「20世紀のマルクス・レーニン主義の専制モデルであり、権威主義政権によって統治する大国」との位置付けを行っている。このように、CCPは大国競争の新しい時代を開いたが、中国が世界各地での浸透方式を認識する人は少なく、CCPが具体的な希望とする主導的な形態が形成されるようになった。
以下はこの「中国挑戦の要素」の要旨部分の概訳である。
アメリカから世界に至るまで、中国共産党(CCP)が大国競争の新時代の競争を引き起こしたと、人々はますます意識するようになった。しかし、中国が世界のそれぞれの地域での侵入モデルをわずか少数の人々しか認識することができず、CCPが追求する特定な統治のパターンを理解することができない。
CCPは単に既定されは世界の秩序のなかで主導的な地位に着眼しているではなく、根本的に世界の秩序を変化させるのであり、中華人民共和国(PRC)を中心として、北京の権威と覇権の野心に寄与するものである。既存の秩序は自由と主権の民族国家(ナショナル・ステイト)の基礎に構築したものであり、アメリカが構築した普遍的な原則によるものであり、アメリカの国家利益を促すものである。
中国の挑戦に直面し、アメリカは自由を確保しないとならない。
中国はその行為によって、1つの挑戦になった。CCPは20世紀マルクス・レーニン主義の独裁をサンプルとして、最終的に急速な近代化と経済成長を実行した。ある程度の上、1970年代後期にCCPは自由市場の要因を受け入れ、それに、アメリカと各国が中国と交流し、中国と貿易を行うと決めたことによる。今日、CCPはその経済力を持って世界各国に脅迫している。外国の社会と政治が中国の条件を飲むようになった。中国の社会主義のブランドに基づいて、国際組織を再構築するようになった。同時に、CCPは世界クラスの軍事力を推進し、アメリカの軍事力に対抗し、最終的に凌駕することを試みている。これらの行動はCCPがインド太平洋地域から全世界に至るまで、その「民族の復興」を実現し、最終的に国際の秩序を変化させることである。
中国の独特な権威主義の形式およびそこから発生する覇権の目標を理解するために、中国の行為が発生する論理的源、CCPによるマルクス・レーニン主義の信仰とCCPが中国のナショナリズムの極端な解釈を掌握する必要がある。
中国の公民に専制統治を実施し、それに世界各地の自由に脅威をもたらしたにもかかわらず、しかし、CCPの指導のもとで中国は依然として各種の脆弱性が存在している。これらの専制独特な弊害によるものである。イノベーションを制限し、連盟の構築と維持ができず、および内部での鎮圧に支払う高額のコストが発生する。それ以外に、中国に特有な抜け穴である経済の不安定、人口構成のアンバランス、環境の悪化、持続的な腐敗、少数民族および宗教の少数グループへの抑圧などである。それに、中国は14億人口に対する監視、審査および洗脳による巨額な費用が発生している。加えて、人民と疎外し、党によってコントロールされる軍隊がある。しかも、特に武漢から発生した新型コロナウイルス(COVID-19)の大流行によって、全世界に疫病、死亡および経済の破壊をもたらした後、CCPの人命無視、他の国への冷淡や無関心および国際規範と義務への無視が注目されるようになった。
中国の挑戦に対し、アメリカは基本面に回帰する必要があり、自由の確保のために、アメリカは以下の10項目の課題によって、改めて外交政策を制定する必要がある。
- 国内の自由を確保するために、アメリカは合憲政府を維持・保護し、繁栄と健全な公民社会を促し、公民意識を支持して、国外からの挑戦に対応する。
- アメリカは世界で最も強く、敏捷(アジャイル)、技術が最も先進的な軍事力を維持する必要があり、同時に盟友とパートナーの共同の利益と共同の責任の安全協力を強化しなければならない。
- アメリカは第二次世界大戦後に構築した自由、開放(オープン)および規則に基づく国際秩序を強固にする必要がある。これらの秩序は主権を持つ民族国家によって構成されたものであり、人権の尊重と法治の忠実を基礎とするものである。
- アメリカはその連盟システムとすべての国際組織を新たに評価し、自由、開放と規則に基づいた国際秩序を強化しなければならない。
- このような再評価に基づいて、アメリカは同盟国の関係を強化し、その方策はさらに有効的に友人とパートナーと責任を分担し、世界の民主国家と他の志を同じとするパートナーと協力して、各種のグループと連盟を組織して自由に対する脅威に対応する。そして、パートナーと協力し、可能な情況のもとで既存の国際組織を改革し、必要に応じて自由、民主、国家主権、人権と法治の新しい組織を構築する。
- アメリカの利益を促進するために、アメリカは公平と互恵の規則のもとに、北京との協力のチャンスを探し、情況が必要の場合、PRCに制限と抑止力を加え、中国の国境内で自由を求める人々をサポートする。
- アメリカはアメリカの公民に中国からの挑戦に関する範囲と影響を教育する必要があり、情況を知る公民だけがアメリカを支持し、自由の確保に厳しい政策を採用する必要がある。
- アメリカは外交、軍事、金融、経済、科学・技術などの領域で新しい世代の公務員を育成し、それに、流暢な中国語を使い、中国の文化と知識に広範囲に理解する公共政策の思想家を育成する必要がある。彼らはその他の戦略ライバル、友人や潜在的な友人の国の言語を掌握する必要がある。そうすることによって、関係する文化と歴史の広範囲の知識を得られるからである。
- アメリカはアメリカの教育を改革し、学生にアメリカの自由な伝統の理解を通じて、自由民主の社会で公民の持続的責任を担い、複雑な情報時代、グローバル化経済の特殊技能に適応し、科学、技術、エンジニアリングおよび数学の方面の専門知識の習得の準備を行う。
- アメリカは自由の原則を擁護する必要があり、これらの原則は既には普遍的で、しかもアメリカの立国の精神(スピリット)の核心である。実例研究、講演、教育の提唱、公共外交、対外援助と投資を通じて、さらに困難の情況およびその他の形式の非軍事圧力で制裁を行う。しかも、国家の重要な利益に害を与え、その他のすべての努力が失敗した場合、軍事力を行使する。
アメリカの立国原則と憲法の伝統に根付いて、繁栄した経済を振興する。世界で訓練を積み重ね、装備が最も優れている軍隊によって強固に守られていた。アメリカの人民とアメリカの政治制度を理解し、世界各国の人民と民族の多様性と共同な自然な性質を認識して、外交実務の中での思想と利益の間、複雑で相互作用する政府官僚から提供されたサービスを賞賛する。高い見識と公民の高度な参加の強化など、多くの方面で多角に取り込む方策によって、アメリカは自由を確保することができる。
この国務省からの報告書は、中国からの挑戦であり、中国に対する挑戦でもある。中国の行為(振る舞い)、中国の行為の思想の根源、中国の弱点および自由民主を確保するなど5つの章によって構成された。中国と中国共産党(CCP)は等しいのではなく、中国の人民とCCPは異なるという用語の使い分けを行っている。要するに、アメリカの敵は中国や中国の人民ではなく、マルクス・レーニン主義の独裁国家のCCPである。CCPの戦略的野心、世界に対する脅威およびその背後の考えとCCP政権の弱点を探求している。
この報告書では、「中国の挑戦は、その行為によるものである」と指摘している。中国に対する挑戦に対応して、アメリカは大統領選挙などの政権交代などの官僚システムの些細なことで争いを超越して、穏健な政策を実施する。そのうち、最大な目標は自由を確保し、10の課題から新たに外交政策を構築する必要があると主張している。
中国は「軍民融合」で、システム的に戦争戦略、大量な地対艦ミサイルでアメリカの国防防御ラインを突破し、キラー(殺し屋)の能力で敵の不備に攻めてくる。それに、人工知能、5G通信などの領域で世界のリードの地位を掌握しようと考えていた。米軍のハイテクの優勢を「削減戦略」で対抗し、第一列島線を突破する戦略を目標にしていると同報告書は指摘している。
アメリカ政府は堅固で穏健な政策で、この政策は官僚の縄張りを超える必要があり、短期的に大統領選挙による政権の交代に影響を受けないことが必要であると報告書も主張している。
この報告書が発表されたのが11月17日(アメリカ時間)で、既にバイデンの勝利のニュースが流れた時期である。そのために、この報告書の内容は政権交代によって影響を受けないように執筆している。内容も非常に高い政策的な考えと哲学的なレベルに達し、戦術の視点から見ると、過去の数年来のトランプ大統領が執行した戦術のレベルと異なっていた。言い換えれば、この内容は基本的には共和党や民主党の党派を超えて、政権の交代によって変化するものではないことがわかる。仮にバイデン政権になった場合、対中政策は変わるのか。報告書は哲学的なレベルに引っ張り、戦略的な思考でこの10の課題を考えていた。
- アメリカの憲政と公民社会
- 強大の軍事力を維持する
- 規則の国際秩序の強化
- アメリカの盟友のシステムを再評価
- 連盟を強化し、新しい国際組織を構築し、民主と人権を促す
- 「公平と対等」の原則のもとで、北京と協力し、アメリカの利益を促進する。しかし、中国に対し制限や抑制力が必要であり、中国内で自由民主を求める人々を支持する
- 中国がもたらした挑戦について、アメリカの国民を教育する
- 新しい世代の公職人員を訓練し、中国がいかにして大国の競争を行ったのかを理解させる
- アメリカの教育システムを改革し、学生に複雑で情報時代の公民責任を理解させる
- 言行一致の自由原則を唱道する
バイデンは盟友関係の維持を主張している。トランプ政権下の国務省の報告書の④と⑤では、バイデンの主張と同じである。また、あとの8~9週間でトランプ政権が終わるかも知れない時期に、明らかに、この報告書は党派を超えて、中国からの挑戦に対し、長期にわたる中国政策を構築することの意図があると考えられる。
朝元照雄(あさもと・てるお)
1950年生まれ。筑波大学大学院社会科学研究科博士課程修了・博士(経済学)。株式日立製作所技術部主任・副参事、ハーバード大学フェアバンク東アジア研究センター客員研究員、九州産業大学経済学部教授・同大学院経済・ビジネス研究科教授を経て、現在は九州産業大学名誉教授。
主著は『現代台湾経済分析』(勁草書房、1996年)、『台湾経済論』(共編、勁草書房、1999年)、『台湾の経済開発政策』(共編、勁草書房、2001年)、『台湾の産業政策』(共編、勁草書房、2003年)、『開発経済学と台湾の経験』(勁草書房、2004年)、『台湾農業経済論』(共著、税務経理協会、2006年)、『台湾経済入門』(共編、勁草書房、2007年)、『台湾経済読本』(共編、勁草書房、2010年)、『台湾の経済発展』(勁草書房、2011年)、『台湾の企業戦略』(勁草書房、2014年)、『台灣産業的轉型與創新』(共著・中国語、台灣大學出版中心、2016年)、『台湾企業の発展戦略』(勁草書房、2016年)、『発展する台湾企業』(勁草書房、2018年)、『台湾の企業研究』(共編、九州大学出版会、2020年)など。