廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第38回

アジア青年社会革新家国際フォーラム

フォーラムの記念撮影

◉フォーラムの記念撮影

 さて今回は、韓国はソウル市で去る7月3日に開催されたアジア青年社会革新家国際フォーラムについてご紹介したいと思います。

 韓国では、2007年に社会的企業育成法が施行されて以来社会的経済に対する関心が高まっている話は第9回の記事でご紹介しましたが、7月1日から5日までソウル市内各地で社会的経済関連のさまざまなイベントが開催され(詳細はこちら(韓国語))、市役所内で社会的経済を紹介する展示が行われたり、協同組合についてのトークイベントが行われたり、2012年に日本で制作された映画「ワーカーズ」が上映されたりしました。特にソウル市は、朴元淳(パク・ウォンスン)市長が社会的経済の支援に積極的なことから、このような推進運動でも韓国で先端を進んでおり、社会的経済支援センターを開設したり、昨年11月にグローバル社会的経済フォーラムを開催したり(今年も11月に開催予定)するなど、さまざまな注目すべき政策を打ち出しています。

社会的経済支援センターの一角の写真

◉社会的経済支援センターの一角の写真(関連書籍などが充実)

 今回のイベントは、韓国の主要新聞の中で最も市民運動側に近い立場のハンギョレ新聞(リンク先は日本語版)が、ソウル市役所と共催したもので、社会的経済というよりも社会的企業家に焦点が当てられています。私個人的には社会的企業家にはどちらかというと批判的な立場ですが(詳細は連載第10回を参照)、アジアの社会的企業家がどのようなことを考えているのかの勉強も兼ねて、このイベントに参加してきた次第です(道に迷って遅刻してしまったため、冒頭の部分は聞き逃してしまいましたが)。

 このイベントは、前述した朴元淳市長やハンギョレ新聞の代表などのあいさつに始まり、その後香港現代文化センターの創設者黄英琦(Ada Wong)女史が基調講演として、2010年から始めた MAD(Make a Difference)という、社会変革を意識したアジア各国の若者に研修を行うプログラムを紹介しました。その後、「なぜアジアなのか?」、「『青年』社会的革新家はより革新的なのか?」、「青年社会的革新家たちはどこで誕生するのか?」そして「青年社会的革新家たちはどうやって有機的に成長できるのか?」という4つのテーマで発表や議論が行われました。

 最初の「なぜアジアなのか?」というセッションでは、パソコンのゲームをプレイすると植樹プロジェクトに寄付される TreePlanet(韓国)、有機素材を使ったファッショナブルなバッグをフェアトレードの商品として販売することで地方在住の職人を経済的に支援する Rags2riches(フィリピン)、そして環境問題への意識を高め、具体的には買い物袋を持参したりゴミ拾いを促したりするグリーネレーション(インドネシア)が紹介されました。なぜアジアかというテーマについては、世界で最も人口が多くかつ経済発展が目覚ましい地域である一方、必ずしも全員に富が行き渡っておらず、また環境面でもさまざまな問題を抱えている以上、社会的企業家もこれら問題に取り組む必要があるという回答が示されました。

 続いて、「『青年』社会的革新家はより革新的なのか?」というテーマでは、低価格で補聴器を提供することで低所得者でも聴力を再獲得できるようにする Delight(韓国)、出産後の母親への支援を行う NPO マドレ・ボニータ(日本)、そして輸血者のネットワークである、その名も Blood Doners Network(フィリピン)の3事例が紹介されました。Delightの場合、従来非常に高価格で(130万ウォン〜180万ウォン(約12万9000円〜17万9000円)低所得層には手が出なかった補聴器を34万ウォン(約3万4000円)という低価格で供給することにより、これまで難聴に苦しんでいた人たちに救いの手を差し伸べています。マドレ・ボニータの場合は、出産後の母親に対する心身的なヘルスケアが不足していることに不満を持った代表自身の経験から、出産後の母親へのサポートに専念した事業を行っています。また、Blood Doners Network の場合、デング熱の治療のために輸血を必要とする同国で、インターネットや携帯電話などを駆使して献血を促しています。これら全てに共通して言えることは、社会問題の解決手段として起業が考えられていることです。

 3番目の「青年社会的革新家たちはどこで誕生するのか?」では、社会的企業を支援する SEED:S(韓国)および UnLTD Indonesia(インドネシア)、そしてマイクロクレジットを提供する Bloom Microventures(ベトナム)が紹介されました。SEED:S は青年社会的企業家の養成、韓国型社会的企業の発展モデル開発、社会的企業のための市民基盤造成、社会的企業実践研究の推進のために2010年に設立され、社会的企業や青年社会的企業家の育成、市民基盤の造成および投資家ネットワークの構築などの活動を行っていますが、基本的に社会を変えたり、社会問題を解決したりしたいというところから社会的企業が生まれるという話が出ました。UnLTD Indonesia の場合には、数多くの島から構成されておりインフラが未整備で、かつ政治腐敗がひどく政府に任せていては生活水準の改善が期待できない同国では、市民が自分たちの生活水準を上げるために自分で行動を起こさないといけないという説明がありました。そして Bloom Microventures の場合、一般観光客に知られていないベトナムの少数民族への観光とマイクロクレジットを組み合わせることで、少数民族の生活向上を行っていますが、講演者は給料が高いだけで自己実現につながらない大企業での勤務を経た後に、本当に社会のためになることをしたいとしてこの業種を選んだと答えていました。

 最後の「青年社会的革新家たちはどうやって有機的に成長できるのか?」では、東日本大震災の被災地でインターネットを活用した通信教育を推進している WIA(日本)、スマートフォンのアプリを使って自己体調管理や安全な(HIV感染を防ぐ)セックスなどのソーシャルマーケティングを行っている Opendream(タイ)、そして国内外での食堂の開店・運営を通じて貧困層の女性を支援する Oyori Asia(韓国)が紹介されました。この部分で特に印象的だったのは、韓国外での店舗においては現地スタッフに現地事情を任せることの大切さを語った Oyori Asia の方のひとことです。たとえばタイやネパールに出店する場合、韓国とは違う法体系に従わなければなりませんし、それ以外にもさまざまな地元の習慣を尊重しなければなりませんが、外国人の場合どうしても現地事情がわからない部分があり、意図せずにトラブルが発生する可能性があるため、現地人に任せるべきところは任せることが最終的な成長のカギになるということです。

 韓国では、英米型の社会的企業から大陸欧州型の社会的経済(協同組合中心)に、そして中南米型の連帯経済へとここ数年で関心が大きく移り変わっています。韓国経済はサムスンや現代グループなどの財閥主導型で、輸出主導型の経済構造にすることで成長を成し遂げ、今や先進国といって構わない国になりましたが、このような富のおこぼれにありつけない人も多くなっており、深刻な問題となっている中、非資本主義型の社会的連帯経済への関心が高まっています。韓国では今年、ハッピーブリッジという協同組合がスペインのモンドラゴングループと協力関係を構築し(韓国語ニュース)、韓国内でもモンドラゴンモデルが非常に注目されています。その一方、現代版修正資本主義ともよぶべき社会的企業家への関心も高く、これらさまざまな動きが韓国に流入しているのが現状だと言えます。

 ただ、韓国の社会的連帯経済の運動は、世界的な連携がまだまだ弱く、そのため CIRIEC(国際公共経済学会)RIPESS(社会的連帯経済推進者大陸間ネットワーク)、それにモンブラン会議など国際的な主要ネットワークの中で韓国の事例が話題になることが少なく、世界からまだまだ十分な注目を得ていないのが現状です(韓国には日本語が得意な人も少なくないことから、日本にいる限りは韓国関連の情報はかなり伝わりますが、英語やフランス語、スペイン語の情報が少ない)。ここ数年でアジアの中でも社会的連帯経済の分野で目覚ましい成長を遂げた韓国が世界的リーダーとなるには、今後欧米や中南米といった地域とも相互協力を進めていくためには、世界的に重要なネットワークに韓国人が参加し、韓国の実情を世界に広く知らせてゆくことが欠かせないでしょう。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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