中国ネットジョーク

第02回

現代中国人民哀歌──我々はソ連様の愉快な後輩だ②

強国ジョーク⑥

『ペンはミサイルより…』

国慶節に天安門前で閲兵式が行われた。
装甲車、戦車、ロケット砲、弾道ミサイル『東風』が続々と続く中、隊列の最後にフリスビーを咥えた男が歩いてきた。
「あれは誰だ?」
「胡錫進だよ。あいつのホラは原子爆弾千発より威力があるぜ」

解説

胡錫進は『人民日報』下部のタブロイド紙『環球時報』の総編集長でジャーナリスト。
ジャーナリストではなく、中共のためにメディアを利用しているだけで真実の報道等しないという批判をこめた呼び名が『フリスビー胡』『フリスビーを手にしたピエロ』。
これは2019年、胡が総編集長を務める環球時報の報道姿勢は習近平の意向に沿い、中国共産党の宣伝工作要請に従ったことが香港で報道され、軽蔑の対象として、つけられたあだ名。中国共産党に対する忖度具合が、飼い主が放ったフリスビーを尻尾を振って、飼い主の意のままに拾ってくる犬のようだということだ。
本当の犬なら可愛いが、人間が権力機関の『イヌ』と称される時は貶し言葉としての『畜生』より下賤な存在である。

原文

国庆阅兵,天安门前开过了
装甲车,坦克,火箭炮,东风导弹等
队伍最后走累一个叼着飞盘的男人
“他是谁?”
“他是胡锡进啊
他的嘴炮可比1000枚原子弹还厉害呢!”

強国ジョーク⑦

『大きくなぁれ』

習近平がアフリカを訪問した折、現地人のアレが非常に大きいのに気づいた。
アレを大きくさせるコツを聞くと、こう。
「使う前に、ナニを寝台のヘッドホードに三回叩きつければ大きくなりますよ」
習近平が帰宅したとき、彭麗媛夫人はもう寝ていたが、
彼はすぐさま服をくつろげヘッドホードへ、ナニを三回バンバンバンと叩きつけた。
彭麗媛は寝ぼけ眼で、「あらアフリカ大使、いらしてたの?」

原文

习大大访问非洲,发现当地土著人JJ特别大
询问让JJ变大的秘诀,土著人告诉他:
“你在使用前,要把JJ往床头上敲三下
就能变大”
习大大回到家中,发现彭麻麻已经睡了
他立马宽衣,把JJ往床头“邦邦邦”敲了三下
彭麻麻半睡半醒地说:“非洲大使您来啦?”

強国ジョーク⑧

『おとぎばなし』

外国の童話と中国の童話の違いとは?
外国の童話は「むかしむかし…」から始まるが、
中国の童話は「二〇二五年の終わりまでに、五年以内に、三十年後には」から始まる。

解説

中国共産党が耳ざわりが良いが実現しそうもない政策や目標を言う際お決まりの年限を引き合いに出した皮肉。

原文

外国的童话和中国的童话有什么不同?
外国的童话用“在很久很久以前”开头
中国的童话开头则是:
“在2025年底前、未来五年内、三十年之后“

強国ジョーク⑨

『判然とせず』

アルツハイマーの老人が玄関口に立ち、
空っぽの財布を見つめて首をかしげた。
はて、自分は今から保護費を貰いに行くのか、
それとももう受け取ったのか、分からない。

解説

保護費は生活保護費の意味。中国における日本の生活保護制度にあたる制度は『居民最低生活保障(=低保)』というが、これを生活保護制度および保護費として翻訳した。
地域ごとにこの生活保障金額は違い、中国民政部によると最高は上海都市戸籍者の1324.4元(約23,700円)/月(15,892.8元(約234,300円)/年)、最低は河南省農村の382.1元(約6,800円)/月(4,585.2元(約82,000円)/年)である。

中国国家統計局の発表によれば、中国公民の2020年平均収入は32,189元(約575,000円)、都市部では40,378元(約722,000円)、農村17,131元(約306,000円)である。

2021年11月現在のレートでは1元は約17~18円。都市部の家賃を除けば、中国の物価は日本の約3~5分の1程度と言われる。

原文

一位得了艾尔茨海默症的老人站在房门口
看着自己手里空空的钱包
搞不清楚自己究竟要去领低保
还是领完回来了

強国ジョーク⑩

『大王の詔』

習近平が『サケル王』に言った。
「お前が俺を冗談の種にして下らん噂を吹聴しているのは先刻承知だ。
すぐやめろ。さもなきゃ目にもの言わしてやる」
「なんで冗談がいけないんだ?」
「なぜならば俺は中国人民の偉大なる指導者、リーダーだからだ!
だというのにお前は俺を中傷している!」
「神仏はすべてをご存じだよ!私は冗談など言ったことがない!」

解説

このジョークは解説なしでは理解できない。
まず、『サケル王』とは、習近平がチベットの文化遺産である叙事詩『ケサル王伝』の主人公『ケサル王』を『サケル王』と言い間違えたことにより生じたネットミームである。

『ケサル王伝』はチベットから中央アジアに広く伝わる叙事詩で、リン王国に君臨する超人的な戦士が近隣のホル王国と戦争を繰り広げる様が描かれている。現存するものとしては世界最長の文学作品と考えられている。
習近平はチベット同化の文脈で、この壮大な文学作品であり文化遺産を「中国の歴史にある、中国古代の歴史的詩文」と扱おうとして、主人公の名や立場そのものを間違えて話した。
チベット文学を中華人民共和国領土の歴史から出たモノとしてチベット支配を正当化しようとしながらも、彼らの文化遺産には全く敬意を払わっていないこと、中国共産党独裁者の他民族や文化への言及などこのような上っ面のみをなぞった欺瞞とも見れる。
習近平がこのチベットから中央アジアに伝わる文学作品について言い間違えたことにより、『ケサル王』という単語が中国共産党の検閲対象となった。
このネットジョークにある『サケル王』というのは習近平の言い間違いを皮肉り、揶揄したときの呼び名のひとつ。習近平体制を皮肉る文脈では時折『偉大なる王サケル』として登場する。
YouTubeには習近平の(数多くの)言い間違いや、プロパガンダによって生まれた呼び名を集めた替え歌集もあるが、そのタイトルは『サケル王』である。

そして、「神仏はご存じだ!」の原文は「頭上有三尺神明」。これはやはり言い間違いで本来は「頭頂有三尺神明、不畏人知畏已知」という言葉の前段。
意味は、良心にもとる行いをすれば(人がそれを知らなくとも神の目はごまかせないため)必ずやその報いを受ける、という戒めの言葉である。
習近平は2017年の党大会でこの言葉を使って談話を出したが、この講話にある『超自然的な神の目はごまかせない』という観念が、基本的には無神論を唱え、かつては伝統的宗教を激しく弾圧し、現在も党が定めた『邪教』(法輪功も含む)や『迷信』の一掃を唱える中国共産党の建前と乖離していると批判と揶揄の的になった。
宗教や信仰という現代でも多くの人々にとって重要な精神文化について、少数民族、少数派の宗教や超自然的な思想は断罪・弾圧する割に自身の内面的な宗教観はどうなのか一顧だにしない、他者は断罪するのに自身は内省しないという姿勢は批判されても仕方がない。しかしその批判を許さないのが現在の中国共産党と習近平なのだ。

原文

习大大对王萨格尔说:
“我知道你在传播我的笑话
你要停止这种行为,不然我就把你拉清单”
“为什么不能笑话?”
“因为我是中国人民
伟大的导师,伟大的领袖!
而你在污蔑我!”
“头上三尺有神明!我从没讲过笑话!”

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