特設記事

東トルキスタンにおける中国政府のジェノサイド政策の背後にある中国人男性人口の急増

この論文は世界ウイグル会議の環境委員会委員長のグルミレー・バールダシュ氏(Gulmire Berdash)が研究し、トルコにある「ウイグル研究所」の雑誌「国際情勢と東トルキスタン」(2022年第3号 ISSN: 2757- 9220)に掲載されました。日本ウイグル協会のアリフ・ミジト氏の翻訳、三浦小太郎氏の編集にて転載いたします。   

グルミレー・バールダシュ氏は1999年から2003年まで、立正大学大学院社会科学研究科で地理学を学び、地理学博士号を取得しました。2017年からはイスタンブールのアイディン大学で助教授として勤務し、研究を続けています。彼女は世界ウイグル会議の環境委員会の委員長も務めています。

東トルキスタンにおける中国政府のこのジェノサイド政策の背後には多くの理由がある。歴史的、民族的、地理的な原因については広く研究されているので、この論文では、中国人人口における男性比率の急増という現象が、この政策の背後にあることを立証していく。

第一 男尊女卑イデオロギーによる犯罪事件

  • 2020年11月26日、吉林省で38歳の女性が女児を出産後、赤ちゃんの口と鼻をテープで巻き、首を絞めて殺害した(新浪、2021)
  • 2012年、劉、呉と合肥市の医師免許を持たない6人の一団は、性選択的妊娠中絶手術を違法に行い、合計29人の女性胎児を死亡させた後、捨てた(万家、2012)
  • 2015年11月20日、江蘇省南通市で、あるおばあさんが嫁が女の子を産んだことに腹を立て、生後4日の孫娘の頭を足で踏みつけるなどして殺害し、死体をゴミに捨てた
  • 2013年9月21日、南昌市新建県に住む4歳と2歳の姉妹が洗濯機の中で溺死した
雑誌「国際情勢と東トルキスタン」ウイグル研究所、2022年第3号の表紙雑誌「国際情勢と東トルキスタン」ウイグル研究所、2022年第3号の表紙雑誌「国際情勢と東トルキスタン」ウイグル研究所、2022年第3号の表紙

 以上は中国で報じられた女性児童に対する残酷な事件である。このような事件の背後には、男尊女卑的な中国のイデオロギーが表れている。もともと中国には、「女婴塔」という、女性の乳幼児を焼くための塔が存在し、上海、福建省、江西省、広東省、浙江省、江蘇省など、中国各地に存在していた。21世紀においても、少女の失踪は中国でもしばしばおきており、南開大学人口開発研究所の報告書によれば、2000年の全国調査データによると、中国における0歳から17歳までの少女の失踪数(Missing Girls)は1194万5000人だった。
 少女の行方不明問題は深刻で、少女の行方不明率は6.12%に達する。各年齢層における女児の失踪率をみると、0~6歳ではおおむね10%を超えており、0~1歳では14.4%と最も高い。つまり、1年間で172万人の1歳未満の女児が失踪したことになる。中国における女性の失踪について、いくつかの事例を分類してみる。

 中国の人口状況によると、少女の失踪は主に3つの過程に分けられる。
 第一は、出生前に女性の胎児が中絶される。
 これは失踪とは異なるが、女性であるというだけで胎児の生命が奪われる例である。
 医学の急速な発展は人々に多くの恩恵をもたらしたが、同時に犯罪を増やしてもいる。現在、超音波検査、絨毛膜絨毛検査、羊水穿刺、その他の技術で胎児の性別を特定が可能となり、女性の胎児を人工的に中絶することを容易に決定することができるようになった。「中国衛生年鑑」の統計によると、1971年から2012年までの中国の人工流産総数は2億7000万回だった。国家衛生健康委員会が発表した「中国衛生健康統計年鑑(2020年)」によると、中国の2019年の人工流産者数は976万2000人に達した。このほかにも、膨大な違法な誘発、投薬、その他の方法によって中絶された女性胎児が存在すると思われる。
 第二は、出生後の失踪。
 出生後に女児を溺死その他の手段で殺害し、見知らぬ土地に置き去りにすること、女児を人身売買業者に売却したり、無償で譲渡したりすること、十分な授乳や栄養、治療を受けずに女児を病気で死亡させることなどが含まれる。
 第三は、「偽」失踪。
 これは中国特有のもので、中国の家族計画政策の制限により、より多くの子供や男の子を産むために、生まれたばかりの娘を隠したり、登録しなかったりする家庭がある。このような女児は現実に存在するが、人口統計上では「消えて」しまう。

第二 中国における「男尊」思想の帰結

 人口統計学によれば、性比とは、ある社会や国の女性100人あたりの男性の数を指す。生物学的な観点からは、通常であれば新生児の男女比は100:100に近いはずである。人口統計学的には、出生時の男女比が100:107を超えない場合は正常とみなされる。この比率が乱れると、いわゆる “自然な” 原因では説明できない不均衡が生じる。
 『世界概况2020』(The World Factbook)の報告によると、一部の国と地域の最新の男女比は以下のとおりである。

年齢グループ別の性別比率(女性100人あたりの男性の数)The World Factbook(2020 estimates)年齢グループ別の性別比率(女性100人あたりの男性の数)The World Factbook(2020 estimates)

 表に示すように、中国の0-24歳人口の性別比率は世界の性別バランスを完全に覆している。
 世界銀行が2021年9月8日に発表した「世界人口見通し2019」は、各国の出生時の性比を地図化したものである。

国別出生時性比(2020-25)World Bank / World PopulationProspects 2019 / 08 Sep 2021国別出生時性比(2020-25)World Bank / World PopulationProspects 2019 / 08 Sep 2021

 世界銀行の報告書の詳細を見ると、中国の新生児の男女比は100:111、0~14歳では100:114であり、これはアメリカ中央情報局(CIA)の報告書を裏付けている。
『世界の現状』(The World Factbook)2022年中国編では、各年齢層における男女の人口差を示している。

『世界の現状』(The World Factbook)2022年中国編『世界の現状』(The World Factbook)2022年中国編

 この統計によると、2021年、中国の男性の数は女性より3700万244千115人多かった。中でも、0~64歳の男性人口は4600万1151人で、女性人口を917人上回っている。これらのデータをより深く見ると、国連人口基金の中国政策ブリーフィングシリーズから、中国がどの年、どの地域で性別の差がどのくらいあるのかを見ることができる。2018年1月、国連人口基金が発表した英文報告書「Promoting the Normalisation of the Sex Ratio at Birth in China(中国における出生時性比の正常化の促進)」によると、1970年以降の中国における出生時性比について以下のような統計が示されている。

PromotingtheNormalisation of theSexRatio at Birth in ChinaPromotingtheNormalisation of theSexRatio at Birth in China

 中国の出生率における男女不均衡の悪化は1990年代に始まり、2004年には121.18でピークに達した。過去30年間における中国各地域の出生時男女比を下のグラフから見ることができる。
 地理的分布の観点から見ると、男女の不均衡は 1980 年代初頭に安徽省、河南省、広東省、広西チワン族自治区で初めて現れましたが、2010 年の国勢調査までに男女の不均衡は全国に広がっている。

Sex Ratio at Birth in China by provinces, in 1982, 1990, 2000 and 2010Sex Ratio at Birth in China by provinces, in 1982, 1990, 2000 and 2010

 男女の人口不均衡は 1980 年代初頭に安徽省、河南省、広東省、広西チワン族自治区で初めて現れ、2010 年の国勢調査までに中国全土に拡大した。特に、河北省、河南省、山東省、山西省などの中原地域は最も危険なレベルに達している。

 2009年に英国の医学雑誌が発表した研究データによると、中国の0歳から4歳の人口の性比は不均衡であることが示された。女子100人当たりの男子の数は、江西省143人、河南省142人、安徽省138人、海南省134人、湖南省133人、東トルキスタン106人、チベット105人である。この点で、最もコントロールされていない場所は徐州市である。徐州市公安局の人口登録統計によると、2005 年 8 月末現在、0 歳児の性比は 172.44 に達した。

 国連人口基金(2018)の「性別不均衡の背景における中越国境を越えた結婚研究:中国調査報告」によると、中国の一部地域の性別比の違い:河北省では、20~24歳の結婚適齢期の性別比は147.6に達し、年齢の上昇に伴い上昇し、25~29歳は171.25、30~34歳は248.16に達した。広西チワン族自治区では、性別比は20-24歳の158.73から、30-34歳の414.15に急騰した(UNFPA、2018)。

 以上は国際的な調査であり、中国統計局が2021年5月11日に発表した第7回国勢調査の主要データによると、総人口の性比は以下の通りとなっている。男性人口は7億2,334万人で51.24%、女性の人口は6億8,844万人で48.76%である。言い換えれば、2020年11月1日に始まった調査では、中国の総人口のうち男性は女性より3490万人多い。2010年の「第6回全国国勢調査」によると、男性人口は女性人口より3184.7万人多い。つまり、この10年間で男性人口は353万人増加した。これは、中国の人口における 3,500 万人以上の男性の超過が、2021 年のカナダの全人口に相当することを意味する。

 なぜ中国中央政府は40年来この不均衡に対して緊急行動を取らず、現在も状況を看過しているのだろうか。中国政府は数百万人の女の子の「失踪」を通じて、性別絶滅(Gendercide)罪を犯したと考えられる。中国政府は関連国際法に基づいて責任を負うべきである。

第三 中国の独身男性の残存婚姻率と婚姻状況残存

 社会学的な観点からは、結婚適齢期は20歳から49歳の間であり、この年齢で人は法的に独身となり、異性と結婚しなければならない。結婚適齢期は国によって異なる。例えばネパールでは、結婚の最低年齢は女子も男子も15歳であり、中国では女子は20歳以上、男子は22歳以上でなければならない。しかし、人口の男女バランスが悪いため、中国の平均初婚年齢は27.8歳である。ただし、生涯未婚の独身者は例外である。北京大学人口研究所の穆光宗教授は、中国の独身男性の年齢層と人数構造のグラフを作成した。

中国の独身男性の年齢層と人数構造中国の独身男性の年齢層と人数構造

「第7回国勢調査」のデータに基づいて計算された上記の統計によると、2020年の中国の超過男性独身者の総数は3,643万8,000人以上である。中国には現在、1700万人以上の独身男性がおり、中国政府は緊急に彼らの妻を見つける必要がある。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は2019年の世界人権報告書の中で、中国とインドの男性人口の状況について次のように触れ、「このようなことは人類の歴史の中で一度も起こったことはない」と述べた。中国の独身男性の数が毎年115万人から増加すると予想されていることを考えると、状況は今後数年でさらに危険になるだろう。

 つまり、配偶者を必要とする中国人独身男性の数は、2030年には2,787万人、2040年には3,937万人に達するということだ。今後20年は世界で最も独身男性が集中する恐ろしい年になるだろう。フランスの人口学者クリストフ・ギルモト氏は、2050年までに中国の結婚市場には女性100人に対して男性が150人から190人になる可能性があると推計している。

中国で配偶者を見つけるのは絶対的に困難

 誰の圧力も受けずに自発的に結婚することは、すべての成人男女の当然の権利であり、この権利の保護は、文明社会と国家にとって不可欠だ。しかし、中国では男女の比率が不均衡であるため、状況が異なる。
 2022年2月5日、江蘇省徐州市郴河で配偶者紹介会が開催された。このイベントに参加した女子の数はわずか5人、男子の数は100人以上だった。このリンクからビデオを見ることができる。このビデオがソーシャルメディアで拡散した後、それは中国で広範な懸念を引き起こした。

 中国では、独身男性は適切なパートナーを見つけるのが絶対的に難しくなっている。仮にパートナーが見つかっても、女性は家や車の所有など、難しい条件を結婚のために課す。男尊女卑的な価値観が女性人口の比率を下げ、それによって、価値観とは逆に中国では女子が男子を選ぶ、つまり女子が「男子を奪う」という新しい用語とトレンドを出現させた。中国の農村の女の子は教育と仕事の機会を探すために都市に「移転」し、彼女たちの結婚の目は教育、経済、社会的地位の高い男性に向けられている。これは農村の独身男性の結婚機会を阻害している。残りの独身男性が家庭を築く問題は、中国政府にとって緊急かつ困難な問題となっている。この問題を解決するために、北京当局は新たなスペースと「女性」の新たな供給源を必要としている。
 
 北京の中央政府は、「チベットは山岳地帯だから男は定住しない、内モンゴルは荒れ地だから男は住みたがらない」という論理で、その地域を東トルキスタンに定め、東トルキスタンにおける新たな政策を敷くことになった。

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