廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第92回

さまざまな種類の協同組合

 社会的連帯経済の中でも主役的な立場を果たす協同組合ですが、実際にはこれらは、目的も活動内容も多種多様です。今回は、そのあたりについて見てみることにしたいと思います。

 最も古典的な協同組合としては、労働者協同組合が挙げられます。これは、通常の資本主義企業の下で労働者が雇用されるのではなく、労働者自身が出資して協同組合という形で自分たちの企業を創設し、そこで自主運営の原則の下で事業を展開してゆくというものです。残念ながら日本では、このような労働者協同組合を管轄する法律は現在のところ存在しませんが、ワーカーズ・コレクティブやワーカーズコープなどという名前で各地で活動しています。また、白物家電から始まり、各種製造業や消費者生協エロスキクッチャ銀行モンドラゴン大学などを抱えるモンドラゴングループでは7万4000人以上の労働者が働いており、約121億ユーロ(約1兆4000億円)もの年間売上高を誇っています。また、法人格としては有限会社や株式会社であっても、従業員が過半数の株を持っているために労働者協同組合と似たような運営が可能な労働者持株会社については、スペインでは法制度上認められた存在ですが、これについても労働者協同組合の一種としてみなすことが大切でしょう。

モンドラゴン協同グループのサイト(日本語版)

◁モンドラゴン協同グループのサイト(日本語版)

 生産者による協同組合としては、農協や漁協なども協同組合として挙げられますが、労働者協同組合との間では大きな違いがあります。労働者協同組合の場合、たとえば労働者15人が集まってレストランをオープンした場合、このレストランという生産手段は協同組合の所有物、言い換えれば労働者15人の共同所有物になり、15人はあくまでもこの協同組合の従業員としてレストランでの仕事を行います。それに対し、農協や漁協の場合は、あくまでも自営業者としての農家や漁師が、自分たちの業務に必要なもの、たとえば各種肥料や漁船の燃料などを共同購入により安く仕入れたり、あるいは販路を確保して収入を安定させたりするために設立したものです(その後、組合員の福利厚生などのために事業を多角化している例も多いですが)。日本の農協は戦前の農業会が起源であり、農家による自主的な組織とは言えませんが、たとえばスペインでは農家が自由に農協を結成し、その農協が生産物の加工を行うことも少なくありません。また、日本各地にある商店街は、商店街振興組合という法人格を有していますが、これもこのような系統の協同組合、すなわち自営業者の協同組合の一種と言えるでしょう。

 しかし、一般的にもっともなじみが深い協同組合といえば、消費者協同組合でしょう。これは、特定の商品やサービスを求めている消費者が集まって結成されたもので、消費者の意向が反映された商品やサービスを手に入れることができるというものです。

 この分野で一番有名なものは、生活協同組合です。有機野菜など安全な食材を消費者に届ける目的で発足した生活協同組合は世界各地に存在しますが、その中でも日本の事例は非常に大規模で、世界的に注目されています。日本生活協同組合連合会の推計によると、その中でも最も消費者生協らしい地域生協については2015年度には全国で130組合が存在し、年間で2兆7731億円の事業高を達成しています。また、この他にも大学生協や職場生協、そして医療生協などが生活協同組合に含まれており、合計で559組合の総事業高は3兆4230億円に達しています。

 この中でも、個人的に特に重要に思われるのが医療生協です。医療生協は病院や診療所、歯科クリニックや訪問看護ステーションなどを協同組合として運営するもので、2015年時点で110組合が存在し、事業高は3296億円となっています。以前はこれらの業界団体としては、日本生活協同組合連合会内の医療部会が活動を続けてきましたが、2010年に日本医療福祉生活協同組合連合会(医療福祉生協連)として独立して現在に至っています。

 この消費者協同組合に属する事例としてスペインでは、日本には存在しない事例がいくつかありますので、ここで紹介したいと思います。

  • 教育協同組合: 幼稚園から大学に至るまでのさまざまなレベルで、協同組合として運営されている学校で、保護者や生徒も学校の運営に参加します。スペイン全国の連合会であるスペイン教育協同組合連合(UECoE)によると、スペイン全国で600ほどの教育協同組合が存在し、1万3500人ほどの組合員職員と1万3200人ほどの契約職員により、27万7000人ほどの生徒や学生に教育サービスを提供しています。
  • 再生可能エネルギー協同組合: 持続可能性への注目度が高まる中で、化石燃料や原子力に依存しない発電方法として、風力や太陽光などの再生可能エネルギーに対する関心が高まっていますが、できるだけ環境にやさしい方法で発電した電力を利用したいという市民の要望を叶えたものです。このような協同組合が欧州レベルでRESCoopという連合を結成しており、65万人もの市民に再生可能エネルギーによる電力を供給しています。

 消費者協同組合における特徴としては、消費者のみならず、そこで働く従業員も組合員となり、両社が協力して組合を運営していく点が挙げられます。これら消費者協同組合は、第一義的には消費者が組合員となりますが、大抵の組合は従業員を必要とすることから、彼らも組合員として協同組合の運営に関わらせる必要があります。また、消費者組合員と従業員組合員の人数を比べた場合、消費者のほうが圧倒的に多いため、特に自らの生活がかかっている従業員側の意見もきちんと反映されるよう、総会では従業員側の1人あたり票数が多くなっています。さらに、特に組合員が数十万人から100万人に達するような消費者協同組合の場合、組合員全員が集まることは物理的に不可能ですので、総会には組合員代表のみが参加する形になります。

 この他、協同組合系の金融機関も忘れてはなりません。日本では協同組合系の金融機関としては信用組合の他、信用金庫や労働金庫、また農協の金融部門(JAバンク)が挙げられますが、これら金融機関の特徴として、利益最優先ではなく、あくまでも組合員のニーズに応える融資を行っていくことが挙げられます。もちろん、中にはそのような理念から逸脱している事例もあるでしょうが、少なくても都市銀行と比べると、これら金融機関のほうが社会性が高いことは間違いないでしょう。

 金融機関系協同組合の変種として、地域通貨を運営している事例を2つ紹介したいと思います。まず、スイスの中小企業間取引ではヴィアという地域通貨が使われていますが、このヴィアを運営管理するヴィア銀行自体が協同組合となっています。また、同じような事例としてベルギーのRESも挙げられますが、これも協同組合となっています。企業間取引の手段としての地域通貨を協同組合が運営することにより、必要以上の金利や手数料を徴収したり、あるいは本業と関係ない投機を行うことなく、あくまでも会員企業のための運営を行えるわけです。

 最後に、共済組合についても協同組合の観点から検討してみたいと思います。共済組合については、国民保険制度が充実していなかった時代に労働者などの生活を守るために生まれたものですが、ここでもあくまでも組合員の最大利益を追求する運営が行われており、実際日本でも共済事業の多くが、各種協同組合によって運営されています。しかし、共済組合の場合には基本的に組合員の掛金のみが収入源であり、この収入から経費を差し引いた額を組合員への保険料などに担保しておく必要があるため、経営の目的が収入増ではなく(必要以上に掛金を徴収している場合、組合員に返す必要があるため)、あくまでも最低限の費用で最高のサービスの提供となるわけです。

全労済のサイト

全労済のサイト

 このように、協同組合といっても実際にはいろんな種類の組合があります。これらは成立事情が異なることや、諸外国と違って日本では協同組合全体を統括する法律や管轄機関が存在しないこともあり、協同組合の第6原則でうたわれている協同組合間の協同が実現しているとは言い難い現状がありますが、社会的連帯経済の重要な担い手としての意識を高めた上で、協同組合間の協同を推進することが今後大切になるでしょう。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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