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ネパールおよびチベットをめぐる最新の状況

集広舎編集部より

チベット・ハウス(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所)の提供により、①ネパールにおけるチベット難民の現状に関する概要、②「ジェネレーションZ」の抗議活動を受けて悪化するネパール在住チベット人の状況、③金鉱採掘への抗議後にカム地方ザチュカのカシ村でチベット人の大量逮捕と通信遮断が起きた件に関するチベット・ハウスの見解と提言をここに公開いたします。

チベットの反論

書名:チベットの反論
副題:チベットの史実を歪曲する中国共産党に挑む
著者:ツェワン・ギャルポ・アリヤ
訳者:亀田浩史
発行:集広舎
判型:A5判/232ページ/並製
価格:1,818円+税
発売:2023年7月20日
ISBN 978-4-86735-047-8 C0031

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ネパールにおけるチベット難民の現状に関する概要

ネパールにおけるチベット難民の状況

 ネパールに居住する約1万2,000人から2万人のチベット難民は、中華人民共和国(PRC)政府によるネパール政府への圧力の強化によって引き起こされる組織的な人権侵害に直面している。ネパールが1995年に難民証明書(Refugee Card)の発行を停止して以来、推定50~75%のチベット人が公式な身分証明書などの書類を所持しておらず、事実上の無国籍状態に置かれ、基本的権利を享受できない状態にある。ネパール政府の公式な難民政策の欠如、国際人権義務の違反、および独自の非公式合意により、ネパールは安全な避難先から、難民たちが「第二のチベット」と呼ぶ場所へと変貌してしまった。そこではネパール政府が「生きることも去ることも許してくれない」と訴えられている。

歴史的背景と政策の悪化

 1959年以来、ネパールは中国の迫害から逃れるチベット人に避難場所を提供し、1989年に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と結んだ「紳士協定」に基づき、彼らのインドへの渡航を容易にしてきた。2008年以前は、年間2,200~3,000人のチベット人が国境を越えていた。しかし中国は、1億ドルを超える援助パッケージ、安全保障協力協定、情報共有協定といった経済的影響力を通じてネパールに組織的な圧力をかけてきた。2019年の「刑事事件における相互司法共助条約」では、ネパールは越境してきたチベット人を7日以内に引き渡すことを義務付けられ、状況が一段と深刻化した。チベット人を中国に強制送還するルフールマン(追放・送還)の行為は、難民が迫害を受ける危険のある国へ強制的に送還されてはならないという、慣習国際法上のノン・ルフールマン原則に違反している。

 ネパールの「一つの中国」政策は、受動的な不干渉政策から、いわゆる「反中国活動」を積極的に抑圧する方向へと変質した。国境越えは2013年までに171件と激減し、2019年以降は新規到着者がほぼ皆無となり、チベットの古くからの脱出ルートは事実上封鎖された。

無国籍状態と基本的自由への深刻な制限

 チベット難民が直面している最も差し迫った問題は、彼らが無国籍状態に置かれていることである。1995年以降にネパールで生まれた子供たちは完全に未登録・未承認のままであり、法的な宙ぶらりんの状態にある世代を生み出している。さらに、難民証明書(Refugee Card)を持つ者でさえ深刻な制限に直面している。なぜなら、難民証明書はチベット人がネパールに物理的に「とどまる」ことのみを許可するものだからだ。身分証明書を持たないチベット難民は、高等教育の追及、他国への渡航、合法的な就労、財産の所有、銀行口座の開設、運転免許の取得、出生・婚姻・死亡の正式な登録、事業の合法的な設立ができない。チベット人が経営する企業は、ネパール人パートナーの名義で登録しなければならない。特に、専門学位を持ちながらも書類の問題によって就労機会を阻まれる20代から30代のチベット難民の失業率が最も急速に増加している。教育と労働の権利の否定は、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(ICESCR)」及び「児童の権利に関する条約」におけるネパールの義務に違反している。子どもには国籍を持つ権利が保障されているにもかかわらずである。ネパールの1992年移民法では、身分証明書などの書類を持たないチベット人は「外国人」として分類され、拘束や国外退去の対象となる。しかし、その多くが長年にわたりネパールに居住していたり、ネパールで生まれたりしている。

 ネパールは2008年以降、チベット人によるあらゆる政治活動を事実上禁止している。チベット人に対し、表現、集会、移動、信教、結社の自由といった権利を認めないことは、ネパールは「市民的および政治的権利に関する国際規約(ICCPR)」の署名国としての義務を履行していないことを意味する。ダライ・ラマ法王の誕生日を含む重要なチベット文化・宗教行事の公的祝賀は、当局がこれらを宗教的儀式ではなく「政治的」および「反中国活動」と分類するため、定期的に禁止または厳しく制限されている。チベット難民は、国旗の掲揚、平和的抗議の組織化、さらにはチベット人にとって敏感で重要な時期における伝統衣装の着用さえも禁止されており、違反者は恣意的拘禁、嫌がらせ、国外退去の脅威に直面する。

 「チベット」という言葉自体が政治的に極めて敏感なため、団体は法的に登録するために「ヒマラヤ」などの代替用語を使用せざるを得ない。ネパール当局は重要な日付の前後には、チベット居住地域に大規模な機動隊を配備し、活動家のブラックリストを管理している。ブラックリストの人物は、中国高官の訪問やチベット関連の記念日の前には、定期的に予防拘禁の対象となっている。そのような状況のなか、2019年の習近平国家主席の訪問時には、前例のない治安作戦が展開され、14歳から65歳までの人々が、わずかな疑いだけで拘束された。

 2025年、ネパールのZ世代の抗議活動が起こり、状況はさらに悪化した。組織的な“偽情報キャンペーン”により、ネパール・チベット事務所のツェプリ・ロパン・トゥルク・ンガワン・チョクドゥプ代表を含むチベット人高官3名と、チベット人議員2名がネパールから逃亡を余儀なくされた。親中派メディアは議員たちの機密パスポート情報と有権者登録詳細を公表し、違法な市民権取得や反ネパール活動を行ったと虚偽の告発を行った。ソーシャルメディア上ではチベット人に対する殺害予告や国外退去要求が相次ぎ、ダライ・ラマ法王に関する虚偽情報が拡散されたほか、チベット仏教僧院が武器を隠匿しているとの偽情報が流布された。ネパール暫定政府はこうした偽情報の拡散を抑制せず、チベット人コミュニティを保護する措置も講じなかった。これにより、中国からの明らかな圧力下でネパールにおける中央チベット政権の活動の存続とチベット人コミュニティの安全が深刻な懸念事項となっている。

 ネパールのチベット難民に対する差別的扱いは、ブータン難民への対応と比較すると際立っている。ネパールは2007年から2017年にかけて11万3500人のブータン難民の再定住を支援した一方で、2007年には中国の副大臣の訪問と援助増額の約束を受けて、5000人のチベット難民の米国への再定住を阻止した。この明らかな二重基準は、人道的義務よりも地政学的な利害が優先されていることを示している。

提言

ネパール政府に対し、以下の点を強く求める。

  1. チベット難民が尊厳ある生活を営み、合法的に経済活動へ従事し、平等な機会を得られるようにするための権利と条件を付与すること。
  2. 難民証明証の発行を再開し、ネパールで生まれた全てのチベット人の子供を出生証明書により登録することで、チベット人の身分証明書を直ちに回復させ、問題なく高等教育を受けられるようにすること。
  3. 難民及び亡命希望者の基本的人権保護に関する具体的な法律と政策を導入 すること。
  4. 1989年の国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との紳士協定及び署名・批准した国連規約・条約を遵守すること。あらゆる追放行為を停止し、1951年難民条約及び1967年追加議定書、並びに、無国籍者の地位に関する条約及び無国籍の削減に関する条約に署名・批准すること。
  5. 平和的な文化的・宗教的行事に対する一切の禁止措置を合法的に解除し、予防的拘束と監視を停止し、チベット人に対する表現と集会の基本的自由を回復すること。
  6. ブータン難民と同等の待遇を正当に提供すること。これには第三国移住機会の促進、身分証明書などの書類の有無にかかわらず全てのチベット難民への就労許可と教育機会の付与を含む。
  7. 2025年10月に実施された不当な迫害キャンペーンを調査し、ネパールに居住するチベット人コミュニティの安全を確保すること。

2025年12月4日

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