
書名:米騒動・大戦後デモクラシー百周年論集 総集編
副題:「米騒動」は労働者主導で一九一七年春から 井上らの『研究』が一八年夏の街頭騒擾に限ったのは誤り
編者:井本三夫、加藤正伸、中川正人、村上邦夫、吉田文茂
発行:集広舎
発売日:2025年3月20日
判型:A5判
ISBN 978-4-86735-058-4 C0031
価格:3500円+税
お買い求めは下記より

紹介
1918(大正7)年の米騒動といえば富山の漁師の妻たちが,米の移出阻止に結束して起こした騒擾だと長く考えられてきた。しかしそれは「古い見かけ」であり,労働者の争議・消費者運動主導という「新しさ」を見誤らせてきた。この誤解の起点は,資料蒐集を1918年8月からの動静に置いた細川嘉六や,その細川資料を使った井上清らの『米騒動の研究』(全五巻)が権威的研究とみなされてきたことにある。
井本三夫氏は1980(昭和55)年に茨城大学教授を50歳で辞したのち,在野で地道な調査研究を長年積み重ね,今回,井上らの『研究』の記述を各道府県レベルまで修正・補充することに成功した。この「総集編」は,井本三夫氏の遺稿集であるとともに到達点である。
目次
井本三夫先生遺稿集『米騒動・大戦後デモクラシー百周年論集 総集編』刊行委員会 趣意書
はじめに
総論 「米騒動」とは何だったのか 片山潜の指摘と井上清らの定義の誤り
第1節 「上からの近代化」のため、米騒動にも二重構造
第2節 片山潜の指摘
第3節 細川の資料蒐集の起点、井上の「米騒動」定義の誤り
第4節 「米騒動」とは何だったのか
第5節 労働者・農民の闘いと街頭騒擾の、分布の異なり
第一章 「米騒動」の三時期と各期の特徴
第1節 第一期(一七年春~一八年前半)の一般状況
第2節 第二期(一八年後半)の一般状況
第3節 第三期(一九年・二〇年春前)の国際化と大戦後デモクラシー
第4節 部落解放運動と全国水平社の誕生
第二章 各道府県の「米騒動」期
第1節 北海道・北方領土の「米騒動」期
第2節 青森県の「米騒動」期
第3節 『論集Ⅱ』掲載 佐藤守「秋田の鉱山と土崎の米騒動・大戦後デモクラシー」期の要旨
第4節 岩手県の「米騒動」期
第5節 山形県の「米騒動」期
第6節 石巻など宮城県北についての資料
第7節 大正期「仙台米騒動」後の住民運動(一九二〇年代初期まで)[中川正人]
第8節 宮城県南地方の「米騒動」と亘理小作争議 [加藤正伸]
第9節 福島県の「米騒動」期
第10節 『論集Ⅰ』掲載 赤城弘「炭鉱労働者に見る米騒動の表出 常磐炭田の労働争議」に加筆
第11節 茨城県の「米騒動」期
第12節 新潟県の日露戦後から「米騒動」期
第13節 栃木県の日露戦後から「米騒動」期
第14節 群馬県の「米騒動」期
第15節 千葉県の「米騒動」期
第16節 埼玉県の「米騒動」期
第17節 首都の日露戦後から「米騒動」期
第18節 『論集Ⅱ』掲載 井本三夫「現地案内:京浜の「米騒動」争議」に加筆
第19節 神奈川県の日露戦後から「米騒動」期
第20節 静岡県の「米騒動」期
第21節 山梨県の「米騒動」期
第22節 長野県の「米騒動」期
第23節 『論集Ⅱ・Ⅳ』掲載 井本三夫「富山県の「米騒動」と映画・テレビの間違い」
第24節 “富山の米騒動”を語る「細川嘉六ふるさと研究会」著書の批判的検討:近代の日本史の“理解”と叙述に関して [村上邦夫]
第25節 石川県の「米騒動」期
第26節 福井県の市民運動と「米騒動」期
第27節 岐阜県の「米騒動」期
第28節 愛知県・京都府・大阪府の騒擾期比較
第29節 滋賀県の「米騒動」期
第30節 神戸の「米騒動」期と兵庫県
第31節 岡山県の「米騒動」期
第32節 鳥取県の「米騒動」期
第33節 島根県の「米騒動」期
第34節 徳島県・香川県の「米騒動」期
第35節 愛媛県の「米騒動」期
第36節 米騒動期(一九一七~一九一九年)の高知市 [吉田文茂]
第37節 『論集Ⅰ』掲載 是恒高志「広島県の「米騒動」・大戦後デモクラシー」の要旨
第38節 宇部炭鉱と山口県の「米騒動」期
第39節 『論集Ⅱ』掲載 井本三夫「北九州の「米騒動」期」に加筆
第40節 軍港・工廠都市(舞鶴・佐世保・呉)の騒擾比較
第41節 佐賀県の「米騒動」期
第42節 長崎県の「米騒動」期
第43節 熊本県の「米騒動」期
第44節 大分県の「米騒動」期
第45節 宮崎県の「米騒動」期
第46節 鹿児島県の「米騒動」期
第47節 沖縄県の「米騒動」期
第三章 日本の米穀侵略と東アジア諸民族の自立運動
第1節 明治政府の対外膨張戦略の批判的検討(2):司馬遼太郎における「明治論」、「日清戦争」を中心に [村上邦夫]
第2節 朝鮮の「米騒動」期と三・一独立運動
第3節 日本の中国米買占めと五・四運動期の阻米運動
第4節 『論集Ⅰ』掲載 佐藤いづみ「東南アジア米輸出ネットワークと米騒動」の要旨
第5節 『論集Ⅱ』掲載 井本三夫「台湾の米騒動期と議会設置請願運動」の要旨
第四章 大戦後デモクラシーとその限界 植民地米依存で大陸侵略・敗戦へ
第1節 普通選挙法と治安維持法の抱合せ成立
第2節 震災時、朝鮮人など大虐殺は権力が意図して政策的に仕組んだ国家犯罪
第3節 朝鮮「産米増殖計画」と抗日パルチザンの形成
終章 『論集Ⅲ』「世界の食糧騒擾」の要点
* * *
編者・執筆者紹介
井本三夫先生遺稿集『米騒動・大戦後デモクラシー百周年論集 総集編』刊行委員会名簿
はじめに
米騒動には近世・明治期にもあるので、ここで主題とする大正中期(第一次大戦末)の有名なそれは、括弧つきで「米騒動」と記すことにする。この『米騒動・大戦後デモクラシー百周年論集』(以下では『論集』と略)は、すでに四巻発刊したので、この総集編を以てまとめの巻としたい。多くの方々の協力を得て成果を上げてきたが、漏れていた事などを補いつつ、成果を出来る限り明確・簡潔なものにまとめたい。最も基本的なことは、「米騒動」は一九一七(大正六)年六月前後から二〇年春まで一貫する(広い意味の)労働者の闘い(賃上げ騒擾と居住区消費者運動)が主導したのであって、それが街頭騒擾化した一八年夏秋の街頭騒擾しか見ていない井上清・渡辺徹編『米騒動の研究』(以下では井上ら『研究』と略)の誤りを指摘することである。
方法としては米価騰貴だけでなく賃金上昇との比を見なければならず、前者を後者で割った実質米価騰貴で見なければ、勤労者の置かれていた状況を客観的に知ることは出来ない。その実質米価上昇率は一九一七年春から二〇年春まで一貫する長大な台の上に、シベリア出兵開始期である一八年夏を中心とする奔騰が上乗せされた、二階建てになっている。しかしその一八年夏にはまだ少数の先発隊しか行っておらず、しかもシベリア出兵の米は全部、陸続きの植民地朝鮮の米を運んできたので、内地では兵士たちが食べるはずだったその分余裕が出た程だった。したがってシベリア出兵による騰貴というのは、「それッ今度は戦争!」という純粋に投機的なもので、すでに一七年春以来の騰貴があったればこそ生じた二次的なものだったのである。したがって第一次的原因だった一七年春から二〇年春まで一貫する長大な騰貴が何ゆえ生じたかを説明することで、「米騒動」とは何だったかが判ることになる。
この立場から全道府県の「米騒動」を書き直すことが、本論集の課題であった。本巻でまとめる諸論稿はこの『論集』Ⅰ~Ⅳと、二〇一八年の拙著『米騒動という大正デモクラシーの市民戦線─始まりは富山県でなかった』(以下では『米騒動という大正デモクラシーの市民戦線』と略)と共に、井本三夫監修・歴史教育者協議会編『図説 米騒動と民主主義の発展』(二〇〇四年刊)を含む。その執筆過程で一八年夏に富山県から始まったとされてきたことの誤りに気づいていたが、高校教育の参考書であることを考慮し教育現場に混乱を持ち込まぬよう、「米騒動」には一七年から前段階があったという表現(同書七六頁)に止めた。そのような限界はあるが、一八年夏秋に関する限り全道府県について最新の資料で書かれているので、多くを引用させて頂くことにする。
引用新聞の略名は通常用いられているものであるが、必要の場合は拙著『米騒動という大正デモクラシーの市民戦線』の八頁に掲げた凡例をご覧頂けるようお願いしたい。
二〇二四年三月 井本三夫
著者プロフィール
井本三夫(イモトミツオ)
1930年生まれ。元・茨城大学理学部教授。2024年4月10日逝去。
主要著作:『北前の記憶』(桂書房,1998年),『図説 米騒動と民主主義の発展』(共著,民衆社,2004年),『水橋町(富山県)の米騒動』(桂書房,2010年),『米騒動という大正デモクラシーの市民戦線─始まりは富山県でなかった』(現代思潮新社,2018年),『米騒動・大戦後デモクラシー百周年論集』Ⅰ・Ⅱ(編集,集広舎,2019年),『米騒動・大戦後デモクラシー百周年論集Ⅲ 世界の食糧騒擾と日本の米騒動研究』(単著,集広舎,2022年),『米騒動・大戦後デモクラシー百周年論集 Ⅳ』(編集,集広舎,2022年)
加藤正伸(カトウマサノブ)
1958年生まれ。歴史教育者協議会会員。宮城県歴史教育者協議会常任委員。
主要著作:『明日の授業に使える小学校社会科3・4年生』(共著,大月書店,2011年)
中川正人(ナカガワマサト)
1938年生まれ。歴史教育者協議会会員。
主要著作:「米騒動と民衆運動の展開」(渡辺信夫『宮城の研究6』清文堂,1984年),「米騒動と仙台」(『仙台市史 特別編 市民生活』1997年),「宮城県の米騒動」(『図説 米騒動と民主主義の発展』民衆社,2004年)
村上邦夫(ムラカミクニオ)
1956年生まれ。東京歴史科学研究会会員,黒部川扇状地研究所研究員。元教員。
主要著作:「兵士の戦場と郷土の戦争認識」(法政大学大原社会問題研究所雑誌 №764号 2022年7月),「明治政府の対外膨張政策の批判的検討」(井本三夫編『米騒動・大戦後デモクラシー百周年論集Ⅳ』所収),「横浜事件とNPO「細川嘉六ふるさと研究会」の“新解釈”」(井本三夫編『米騒動・大戦後デモクラシー百周年論集Ⅳ』所収)
吉田文茂(ヨシダフミヨシ)
1954年生まれ。高知県社会運動史研究会副会長。
主要著作:『透徹した人道主義者 岡崎精郎』(和田書房,2008年),高知県部落史研究会編『高知の部落史』(共著,解放出版社,2017年),村越良子・吉田文茂『教科書をタダにした闘い―高知県長浜の教科書無償運動』(解放出版社,2017年),四国部落史研究協議会編『四国の水平運動』(共著,解放出版社,2022年),水野直樹編『植民地朝鮮と衡平運動―朝鮮被差別民のたたかい』(共著,解放出版社,2023年)