
書名:桜人伝説
副題:桜をめぐる作家たち
著者:細川呉港(ほそかわ・ごこう)
発行:集広舎
発売:2025年04月21日
判型:四六判/上製/264ページ
価格:2400円+税
ISBN 978-4-86735-059-1 C0095
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紹介
日本人はみな死ぬ前に桜狂になる
桜にかかわった作家や文化人の私生活を探ると
多くの人が桜をめぐって絆綱を深めている事が判る。
人はみな還暦を迎えると桜に目覚め、
それまで囚われていた出世欲や、金銭欲から解き放される。
目次
第1章 成城学園の桜人たち──水上勉、大岡昇平
第2章 那須高原の別荘に集う桜人──里見弴、水上勉、宇野千代
第3章 鎌倉の桜大人──小林秀雄(西行と本居宣長)、吉井長三、今日出海
第4章 民俗学者と桜の俳人たち──柳田國男、折口信夫、山本健吉、岡野弘彦
第5章 野口雨情と「雨情しだれ」──日光植物園久保田秀夫
第6章 桜校長高松祐一をめぐる桜人──牧野富太郎、佐野藤右衛門
前書きより
人によって早い遅いはあるが、桜の花を心から美しいと思うようになるのは、やはり還暦を過ぎてからだ。美しいと思うだけでなく、いとおしいとさえ感じる。それは満開に咲いた桜も間もなく散ってしまうことを知っているからである。そして同じように自分の命も、もうあまり長くない事を悟る。人生に黄昏の季節が来たことを初めて自覚させるのだ。この悟りを迎えることによって、人は、今まで囚われて来た俗世間の出世欲や、名誉欲、金銭欲などの邪心から解放される。桜によって目覚めさせられるのである。仮にこれを「桜記念日」としよう。あるいは「桜花忌」と言ってもいい。今までの自分が一度死に、別の人間に生まれ変わるからである。人間はこれを早く迎えるか、遅く気が付くかで、その後の人生がおおいに違う。
(中略)本居宣長は死ぬ前に毎晩布団の中で、桜に思いを巡らせて歌を詠んだ。最初は百首つくる予定だったが、なかなか死なないので、次第に増えてしまいには三百首におよんだという。それから時を経て、百八十年後、文芸評論家の小林秀雄は死ぬ前の二十年間、狂ったように桜を見て歩いた。しかも多くの作家たちを誘って一緒に歩いた。目的の桜の、花の見ごろに合わなかったときは、次の年に再びトライした。桜は、見れば見るほど奥が深いことが分かる。水上勉も宇野千代も大岡昇平も、さらに里見弴から川端康成まで、画家は梅原龍三郎、中川一政、東山魁夷も、小林はみんなを桜の信者にした。菩提樹の下で釈迦が悟りを開いたように、人は桜の樹の下で悟りを開くのであろう。こうして「桜人」はあちこちに「桜旅」をしながら、まるで感染者を増やすように、桜菌を撒いて歩き、また多くの桜人を生んでいくのである。
著者プロフィール
細川呉港(ほそかわ・ごこう)。昭和19年(1944年)広島県呉市生まれ。移民船でキューバへ。集英社に入社後、宣伝部、雑誌編集部を経て、つくば科学万博副館長、学芸編集部長を最後に定年。中国担当として長年中国を取材。現在フリー。東洋文化研究会の運営は今年で36年目。著書に『桜旅』愛育出版。『舞鶴に散る桜』飛鳥新社。『紫の花伝書』集広舎。『花人情』愛育出版。『草原のラーゲリ』文藝春秋社。『ノモンハンの地平』光人社。その他『台湾万葉集』集英社。『バイコフの森』集英社。などを編集。名もなき歴史の「英雄」たちを追いかけるのをモットーとしている。日本花の会東京多摩会員、牧野植物同好会会員、育桜会会員。