集広舎の本

増補改訂版 殺劫──チベットの文化大革命

『増補改訂版・殺劫』書影

書名:増補改訂版 殺劫──チベットの文化大革命
著者:ツェリン・オーセル
撮影:ツェリン・ドルジェ
翻訳+解説:藤野彰
翻訳:劉燕子
発行:集広舎
発売日:2025年02月20日
製本:上製/B5判/428ページ
ISBN:ISBN978-4-86735-056-0 C0098
価格:7,500円+税

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フォト・ルポルタージュの名作、決定版

チベット文化大革命の暴風を現在に伝える衝撃的な秘蔵写真と実証的な追跡取材。二度の改訂を重ね、新章「補記」と新たな写真を加えたフォト・ルポルタージュの名作『殺劫』決定版

抜粋「日本の読者へ」

 本書『殺劫』は毛沢東の文化大革命によるチベット高原の蹂躙を目撃者の目で証明した写真ルポルタージュである。二〇〇六年の文革開始四〇周年に台湾で中国語版を出版してからすでに一七年の歳月が流れた。この一七年は一本の木が成長する過程のようなものだった。チベットには「如意樹」という名前の、仏教信仰と関連したシンボルマークがある。青々と生い茂った大樹が満開の花を咲かせ、宝物をいっぱいつけているさまを描いたもので、何でも願いをかなえてくれ、無尽蔵の富を与えてくれると考えられている。だが、私がここで言う木とは災難の実をたわわにつけた記憶の木であり、今ではこの木には以下の刊行本をはじめとした果実が実っている。(中略)

 私はしばしばこんなふうに思いもする。人々、とりわけ異国の人々が、はるかかなたのチベットで起きた様々な政治的暴力の物語に関心を抱くだろうか、と。さらには、似たような境遇―奴隷のごとく酷使され、自由を失い、今なお昔の傷跡にまみれ、相変わらず暴力にさらされるという経験―に苦しめられたことがあるのだろうか、と。それは私の考えすぎかもしれず、実際にはどうしても理由を探し出さなければならないという必要もないことだ。歴史的事件の明らかな証拠に基づいており、なおかつ無数の人々の運命にかかわっているということでありさえすれば、多くの言語で翻訳出版される価値がある。

──本書「日本の読者へ日本語版(増補改訂版)序」ツェリン・オーセル

目次


第一章 「古いチベット」を破壊せよ
第二章 造反者の内戦
第三章 「雪の国」の龍
第四章 毛沢東の新チベット
第五章 エピローグ―二〇年の輪廻
第六章 補記──『殺劫』その後
解説 藤野彰

ツェリン・オーセル(茨仁唯色、Tsering Woeser)略歴

 中国北京在住のチベット人作家・詩人。1966年、文化大革命下のチベット・ラサに生まれる。原籍はチベット東部カムのデルゲ(徳格)。1988年、四川省成都の西南民族学院(現・西南民族大学)漢語文(中国語・中国文学)学部を卒業し、ラサで雑誌『西蔵文学』の編集に携わる。チベット関連の中国語作品に詩集『西蔵在上』(1999年)、散文集『名為西蔵的詩』(2003年に『西蔵筆記』として中国国内で出版後、発禁処分となり、2006年に台湾で再発行)、旅行記『西蔵―絳紅色的地図』(2003年)など多数。
 2006年、本書『殺劫』(増補改訂版2016年、増補改訂新版2023年)を台湾で刊行し、中国当局によって固く封印されてきたチベット文革の真実を、写真と追跡取材で初めて明らかにした画期的ルポルタージュとして国際的な反響を呼んだ。中国当局の言論統制や出国禁止措置に抗して誠実な著述活動を続けてきた作家精神が評価され、オランダの「プリンス・クラウス賞」、米国務省の「国際勇気ある女性賞」などを受賞。「著述は流浪、著述は祈禱、著述は証人」を座右の銘にしている。夫は長編小説『黄禍』などで知られる作家の王力雄氏。
 本書掲載のチベット文革の写真を撮影したツェリン・ドルジェ氏(故人)は著者の父親で、中国人民解放軍の元将校。1950年、チベットへ侵攻した人民解放軍に13歳で参加し、その後、幹部に昇進してラサ軍分区副司令員などを務めた。趣味で写真撮影に取り組み、軍幹部という特殊な立場にあったことから、数多くの文革運動の現場をカメラに収めることができた。生前、これらの作品は公表されないまま長く秘蔵されてきたが、娘である著者の手によって『殺劫』に結実した。

訳者略歴

藤野 彰(ふじの・あきら)
中国問題ジャーナリスト、北海道大学名誉教授。1955年、東京生まれ。78年、早稲田大学政治経済学部卒。同年、読売新聞社入社。86~87年、中国・山東大学留学。上海特派員、北京特派員、シンガポール支局長、国際部次長、中国総局長などを歴任。中国駐在は通算11年。東京本社編集委員(中国問題担当)を経て2012~2019年、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院教授。主な著書に『客家と毛沢東革命――井岡山闘争に見る「民族」問題の政治学』(日本評論社)、『嘆きの中国報道――改革・開放を問う』(亜紀書房)、『現代中国の苦悩』(日中出版)、『臨界点の中国――コラムで読む胡錦濤時代』(集広舎)、『「嫌中」時代の中国論――異質な隣人といかに向きあうか』(柏艪舎)、『現代中国を知るための54章【第7版】』(明石書店、編著)、『客家と中国革命――「多元的国家」への視座』(東方書店、共著)など。訳書に『わが父・鄧小平「文革」歳月(上下)』(中央公論新社、共訳)ほか。

劉燕子(リュウ・イェンヅ)
現代中国文学者。博士(学術)。中国湖南省出身。大学で教鞭を執りつつ、日中バイリンガルで著述・翻訳。藤原書店から『天安門事件から「〇八憲章」へ』(共著)、『「私には敵はいない」の思想』(共著)、『中国が世界を動かした「1968」』(共著)。『「友好」のエレジー』(共著)。集広舎から『「〇八憲章」で学ぶ教養中国語』(共著)、『永遠の時の流れに』(共訳)、『中国低層訪談録――インタビューどん底の世界』(編著訳)、『殺劫――チベットの文化大革命』(共訳)、『チベットの秘密』(編著訳)、『劉暁波伝』(編訳)、『牛鬼蛇神録――獄中の精霊たち』(共編訳)、『マオイズム革命』(編訳)、『私の西域、君の東トルキスタン』(監修・解説)、『不死の亡命者』(単著)。書肆侃侃房から『劉暁波詩集――独り大海原に向かって』(共訳)、『劉霞詩集――毒薬』(共訳)、『テンジン・ツゥンドゥ詩集――独りの偵察隊』(共訳)等。中国語の著訳書に『這条河、流過誰的前生與后生?』、『11封信――関於劉暁波的至情書簡』(共訳)等。