書名:民族自決と非戦
副題:大正デモクラシー中国論の命運
著者:高井潔司
発行:集広舎
発売日:2024年11月11日
製本:上製/A5型/408ページ
ISBN:978-4-86735-054-6 C0021
価格:4,400円+税
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紹介
我々は百年以上前の歴史的優越という幻想をいつまで引きずっていくのか
現在に眼を転じてみると、「民主主義対専制主義」といった構図で、中国を批判する昨今の中国論、中国報道にも、中国に対する歴史的優越感、蔑視の傾向が強くみられる。その後の日本の運命を大きく変えた明治から昭和にかけての中国論の検証とその反省は、現在の中国論を見直す上でも重要な意味を持っていると言えよう。《本書 序章「なぜ『中国論』を論じるのか」より》
著者略歴
高井潔司(たかい・きよし)
神戸市生まれ。都立大泉高校、東京外国語大学中国語学科卒。1972年、読売新聞社入社、テヘラン、上海、北京特派員を歴任、論説委員を最後に1999年退職。イラン・イラク戦争、ホメイニ革命、胡耀邦失脚事件、天安門事件、鄧小平死去及び中国の改革・開放政策の展開を現地で取材。2000年北海道大学大学院国際広報メディア研究科教授、2012年同大学名誉教授。同年桜美林大学リベラルアーツ学群教授。2019年退職。中国メディア研究を中心に、日中関係、現代中国を論じている。単著に『甦る自由都市上海』(読売新聞社、1993年)、『中国情報の読み方』(蒼蒼社、1996年)、『21世紀中国の読み方』(蒼蒼社、1998年)、編著『現代中国を知るための55章』(明石書店、2000年)、『中国報道の読み方』(岩波書店、2002年)、『中国文化強国宣言批判』(蒼蒼社、2011年)。共著に『「中国」の時代』(三田出版会、1995年)、『新聞ジャーナリズム論』(桜美林大学北東アジア総合研究所、2013年)。共編著に『日中相互理解のための中国ナショナリズムとメディア分析』(明石書店、2005年)。共訳に『中国における報道の自由』(桜美林大学北東アジア総合研究所、2013年)など多数。
目次
序 章 なぜ「中国論」を論じるのか
第一節 大正デモクラシー中国論とは
第二節 軍部、メディア、大衆世論の相互作用検証の必要性
第三節 清水安三とは何者か
第四節 デモクラシーか帝国主義か
第五節 民族運動をどう捉えるかが分かれ目
第六節 国情理解の重要性を痛感した記者生活
第七節 中国との距離感をどう保つか
第二章 大正デモクラシー中国論の前提としての明治中国論
第一節 明治中国論の二つの流れ
第二節 大隈重信と福沢諭吉
第三節 日清戦争での日本の変節を批判した内村鑑三
第四節 講和めぐる朝野の過大な要望に悩む陸奥宗光
第五節 評価分かれる福沢諭吉のアジア論
第六節 福沢のアジア論の原点――不干渉論
第七節 一変する福沢のアジア論
第八節 「脱亜論」をもたらしたクーデターの失敗
第九節 二十世紀に持ち越す「支那・朝鮮」の文明開化
第十節 「公式の帝国化」を体現した山県有朋
第三章 大正デモクラシー中国論への展開
第一節 大正デモクラシー中国論とは?
第二節 大正という時代
第三節 清水安三と大阪朝日人脈
第四章 『北京週報』を取り巻く人々
第一節 『北京週報』と清水安三
第二節 丸山昏迷に学んだ清水安三
第三節 丸山昏迷論
第四節 『北京週報』論
第五節 『北京週報』の受難
第五章 清水安三は変節したか——「北京の聖者」としての限界
第一節 郁子との再婚
第二節 「北京の聖者」清水安三
第三節 日中戦争開戦時の言動
第四節 通じなかった日中非戦論
第五節 ハワイ舌禍事件の深層
第六節 日和見主義評価の問題点
第六章 満州事変を侵略と断じた吉野作造
第一節 「外にあっては帝国主義」か?
第二節 吉野中国論の見直し
第三節 民衆運動への理解と連帯
第四節 吉野の転換
第五節 満州事変を侵略と批判した吉野
第六節 吉野の国民世論批判
第七章 大阪朝日新聞と大正デモクラシー
第一節 新聞の変節はどう形成されたか?
第二節 軍とメディア、大衆の三位一体体制
第三節 ぶれる大阪朝日の論調
第四節 大阪朝日を襲った白虹事件
第五節 デモクラシー路線への回帰
第六節 協調外交に寄り添う大阪朝日
第七節 比較的緩かった新聞統制
第八節 潜行する総動員体制の企み
第九節 流れを変えた「国益」概念
第十節 総動員体制と在郷軍人会
第八章 大阪朝日新聞の変節
第一節 国外クーデターとしての満州事変
第二節 事変前夜のメディアと軍部
第三節 大尉殺害事件公開で一変する新聞
第四節 狙い通りの関東軍の世論操作
第五節 謀略実行を促す新聞論調
第六節 好機を逃さなかった事変断行
第七節 謀略決行と事変報道
第八節 現地報道が誘導した変節
第九節 総動員へとかき立てた新聞事業
第十節 朝毎の全国紙化と地方紙の再編
第十一節 新聞社の反省は十分か
第十二節 変節招いた内部メカニズム
第九章 変節をくぐり抜けた「独立自主」の人、石橋湛山
第一節 批判基準としての石橋湛山
第二節 マルクス主義歴史家の石橋評
第三節 言論人としての矜持
第四節 表現の工夫による抵抗
第五節 抵抗の哲学――独立自主の精神と功利主義
第六節 福沢諭吉―田中王堂の継承
第十章 事変後、方向転換した橘樸
第一節 魯迅も舌を巻いた橘の研究の深さ
第二節 五四運動に対する深い読み
第三節 農村変革に対する強い関心と批判
第四節 満州事変後の橘の「方向転換」
第五節 相次ぐ理論と現実の乖離
第六節 分かれる橘評価
第七節 対中使命観の最後のランナー
第十一章 科学的中国論を追求した尾崎秀実
第一節 民族主義の高まりに着目
第二節 多様な顔を持つ男
第三節 尾崎中国論の心髄
第四節 尾崎中国論の実際
第五節 言論統制を避ける手法
第六節 尾崎から学ぶ国際報道のありよう
第七節 政治実践者としての尾崎の評価
あとがきに代えて、本書のまとめ
参考文献・索引