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坂出祥伸氏、自著を語る

中国古典を読むはじめの一歩書名:中国古典を読むはじめの一歩
著者:坂出祥伸
A5版:228ページ
価格:2,730円(税込)

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坂出祥伸氏が三十年以上の教学経験と在外研究から得た幅広い知識によりまとめられた、集広舎発行の自著『これだけは知っておきたい 中国古典を読むはじめの一歩』について、「本書を書いた動機」また「利用される先生がたへ」を寄稿して下さいました。ご一読下さい。

本書を著した動機

 三十年以上、教壇に立って中国古典を教えてきたが、反切とか避諱改字とか偽書とかは、そういう事項が出てくる度に簡単に説明してきてはいるが、事前の下調べでは、語句などの典拠調べに追われて、反切などに十分な時間を割いて調べたり考えたりできなかったので、自分自身の覚書として短くても文章化しておいて授業の時に使いたかった。
 もう一つは、近年の中国学の傾向として、古典と近現代の二極分化し、後者を勉強する学生は、古典にはそっぽを向け、古典への対処のしかたを知らないで過す。ところが、そういう学生が大学院に進み、さらに教員になると、何んらかのきっかけで古典に関係せざるを得ないことがある。そういう場合に過去の不勉強が足を引っ張って無知をさらけ出すのである。例えば、定年退職してから『史記』『唐詩』に興味が出てきたので読書会をやっているという話はよく聞くが、『史記』には、「避諱字」がしばしば出てくるので、悩まされるそうである。また、現代語学専門の人は偽書の存在を知らないから、漢籍目録の記載をそのまま信じてしまう。本書の「偽書」の項の冒頭に出した例は実際にあったのであり、私は大変なショックを受けた。投稿論文を審査した委員も証拠として引用した資料が偽書だとはつゆ知らなかったのであろう。これが上述の二極分化の弊害なのである。

利用される先生がたへ

 本書はあくまでも「はじめの一歩」である。二歩目は各項の末尾に掲げてある参考書をもとにして、さらに進んでいただきたい。また、できれば、本書をしのぐような類書を作っていただきたい。本書には、欠点が多いし、また、不足している事項もあるだろう。最近気づいたのは、「空格」「抬頭」がどういう場合に用いられるかの説明をしておきたかったことである。中国の文化大革命が終息して間もなく、著名な学者から毛筆で繁体字の手紙を頂戴したが、この「空格」が厳重に用いられ、さらに四字、六字で構成された文章に驚いてしまったが、こういう書き方をしてこそ学者文人と称されるのであろう。私は返信を書くのに窮したのである。

 本書の「Ⅱ、古典の分類はどのように展開したか」のなかの「8、清末より民国時期にいたる図書分類、9、現代中国の図書分類法」の2項目と、「(附)ヨーロッパの図書館収蔵漢籍の目録」とは、漢籍あるいは中国書を所蔵される図書館の図書館員には、ぜひとも読んでいただきたいと希望している。
 というのは、以下のような事情があるからである。「Ⅱ、古典の分類はどのように展開したか」では、「8、清末より民国時期にいたる図書分類、9、現代中国の図書分類法」の2項目は、これまでの中国目録学あるいは目録学史では取り上げられたことがない時期の図書目録の紹介であり、西書(欧米書や日本書の訳書)が盛んに出版された時期は中国の近代化にとって きわめて重要であったので、中国の新しい知識人たちはその分類に苦労したであろうし、その後、デューイ分類法が紹介されて、これによって中国書を分類するようになり、さらに中華人民共和国の誕生により、全く別系統の分類法が今日の中国で行われているという実情については、系統的な記述はないままである。また私は、「(附)ヨーロッパの図書館収蔵漢籍の目録」という紹介をしているが、こういう方面では、本邦最初のまとまった紹介であって、私が紹介したフランス、イギリス、オランダ以外のヨーロッパ圏の図書館所蔵漢籍を調査される場合(こういう調査はぜひとも行ってほしい)にはお役に立つであろう。

著者・坂出祥伸

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