2024年12月28日の西日本新聞/読書面に小舎新刊、高井潔司著『民族自決と非戦──大正デモクラシー中国論の命運』の書評が掲載されました。評者の麻生晴一郎さんのご承諾をいただき、掲載いたします。
書名:民族自決と非戦
副題:大正デモクラシー中国論の命運
著者:高井潔司
発行:集広舎
発売日:2024年11月11日
製本:上製/A5型/408ページ
ISBN:978-4-86735-054-6 C0021
価格:4,400円+税
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軍国主義への潮流批判した人々
日清・日露戦争後、遅れたアジアを日本が導くという使命感のもと、日本の大陸進出は続いた。中国では1919(大正8)年に起きた五四運動など抵抗が激化。こうした民族自決の動きに対し、日本社会はその「反日」の側面から冷淡な反応に終始し、主流の中国報道、世論とも日本の既得権益を守るべく軍事的行動を支持する傾向が強まっていく。
だが、一方で本書に出てくる清水安三のように、民族自決の動きを評価し軍国主義の潮流を批判する人も一部ながら存在した。本書が紹介するのはそのような人物とメディア、たとえば福沢諭吉が説いた功利主義の流れを汲み貿易立国のために満州(現在の中国東北部)や朝鮮などでの日本の既得権益放棄を主張した石橋湛山や、大正デモクラシーの先頭を走り清水を高く評価した吉野作造や大阪朝日新聞などである。
1931(昭和6)年に満州事変が起きると、報道や世論は軍事行動支持一色になる。反戦を主張していた大阪朝日も強硬論を唱えたように、彼らの言動にも変化が見られ、後世の歴史家から批判を受けたりもした。しかし、著者は大阪朝日をはじめ新聞などの変節ぶりを検証する一方、軍や世論の動向も考慮に入れ、当時ぎりぎり可能な表現上の工夫により石橋が戦時中も主張を貫いたことや、清水が終始中国や朝鮮と対等な姿勢でいたことなどを挙げ、一定の評価を与えている。
当時の状況を踏まえ言動の全体から評価しようとする本書の方法は、激動期の見えない未来に直面した彼らへの正当な評価につながるだけでなく、同じく見えない未来に直面する今日への教訓になり得るものだ。著者は西側世界の価値観の高みに立ち批判を繰り返す昨今の中国報道に警鐘を鳴らしている。「中国がおかしいのだから批判は当たり前」と考える人もいようが、満州事変が起きた時の世論も「日本が正しい」だった。その中であえて軍国主義とは一線を画した彼らの言論に目を向ける価値はあるのではないだろうか。
麻生晴一郎(ルポライター)