中国ネットジョーク

第04回

現代中国人民哀歌──我々はソ連様の愉快な後輩だ④

㉙『“無”の発見』
武漢の街である男性が憂鬱そうな顔で歩きながら、一人ぶつぶつ言っていた。
「マスクはない、アルコールもない、保護ゴーグルだってない……。」
そのとき、傍らを通りがかった、私服警官らしき人間が小声でささやいた。
「同志、君がもし続けて我々の偉大なる共産党を貶めるのなら、私はこのピストルで君の脳を吹っ飛ばす!」
通行人は私服警官をねめつけると独り言を続けた。
「見ろい、弾だってありゃしねえ……。」

原文

武汉街头,一个愁眉苦脸的男子一边走路一边自言自语:口罩没有,酒精没有,护目镜也没有……
这时旁边走过来一个看起来象是便衣的人小声对他说:同志,你要是再这样诋毁我们伟大的共产党,我就要拿手枪把敲你的脑袋了!
那个男子看看便衣警察,继续自言自语:看看,连子弹也没有……

㉚『前途は明らか』
ある医療従事者が武漢で行われた大会で演説した。彼は必死に武漢は物資的には豊富であると述べていた……。
その時、張華が挙手して聞いた。
「我々の防護服はいったいどこにあるのだ?」
翌日、同じ医療従事者がまた演説に来た。
今度は李萍が手を挙げて質問した。
「私は防護服のありかではなく、ただ、張華がどこに行ったのかを伺いたいのです。」

解説

「張華は北京大学、李萍は専門学校、私は百貨店の販売員。私たちは皆明るい前途が開けている」
この文例は中国の国語辞典にあたる、新華辞典で使われていた文例である。七、八十年代の中国における同年代の若者の前途はそれぞれの社会的知識的階層に関係なく全て明るい、という意味であった。中国で教育を受けた者であれば皆この文例を知っているという。
その後、社会の変遷に伴い、この文例は明らかなブラックユーモアとして使われるようにもなった。

また、張華は革命烈士の一人でもある。生前は空軍から進学した医大生であった。軍人の家庭に生まれ、何度かの受験を経て1972年に軍医大の空軍医学部に入学、その後は良好な成績を修めていたが、1982年24歳の時、肥溜めに落ちた老人を助けるため命を落とした。その勇気ある行為をたたえられ、名誉称号である烈士の称号を受けた。
李萍は有名人にも同姓同名が非常に多い。
エリートでもそうでなくても、疫病と共産党体制は容赦しないという意味で、確かに明白な前途がある。

原文

在武汉,一个人在医院职工大会上演讲。他卖力地讲武汉物资是多么充沛……
这时张华举起了手说:“我们的防护服都到哪去了?”
第二天,那个人又来演讲。
李萍举手问,“我不想知道防护服到哪里去了,我只想知道张华到哪里去了?”

㉛『長征 コロナ2020』
ある市民が聞いた「総書記同志よ、我が国は今まさに新型コロナウイルスとの戦いでの勝利の道に進んでいますが、あちこちで物資が不足し、人々は食べるものすらありません。どのようにお考えですか?」
肥溜め臭は答えた「誰が勝利への道で食事を与えると約束したか?」

解説

肥溜め臭:習近平の現在の呼び名の一つ、肥溜め(または劣悪な場所)から。
肥溜めのあだ名の由来は前述のジョークでも少し開設したが、習近平がミャンマーを公式訪問した際、アウンサンスー・チーがフェイスブックにその旨を発表した際、自動翻訳が彼の名前を Shithole (肥溜め、劣悪な場所)と誤訳したことから。
出典:

原文

有个市民问:“总书记同志,我们国家正走在通向战胜新型冠状病毒的大路上,但到处都缺乏供应,人民没有什么吃的,这如何理解?”
粪坑先生答:“是谁答应在路上供应吃的啦?”

㉜『忖度なく拍手』
鍾南山はあちこちで感染症の流行について報告していた。
ある日某病院に報告に行ったが、病院の責任者がその前に病人を集め言い含めた。
「鍾南山同士が報告を終えたら熱烈な拍手をするように。」
鍾が報告を終えると、ちゃんと鳴りやまない拍手が起き、鍾は大変満足した。
だが突然気づいた。聴衆のうち一人だけ拍手をしていない。鍾はにわかに不機嫌になり聞いた。
「なぜ君は私に拍手をしないのか。」
「もう肺炎が治ったので」

解説

退院するなら院長はじめ責任者のおべっかに付き合う必要はない。
鍾南山は中国の疫学と医学の博士で、2002年に感染が流行した重症急性呼吸器症候群に対しSARSという病名を提案し、自らも積極的に患者を受け入れた。
その際は隠ぺい工作を行う当時の衛生部や中国疾病予防管理センターの見解に異を唱えたことでも知られる。
2020年初頭に新型コロナウイルスによる感染症拡大の際は新華社のインタビューに今後の増加はなく、死亡率も大幅に低下するだろうという見解を示した。
鍾南山氏,新華社のインタビューを受ける 2020/01/29:

原文

钟南山到处作疫情报告。一天,他去某医院作报告,事先该医院负责人把病人召集起来叮嘱:“在终南山同志作完报告后要热烈鼓掌”。终作完报告后果然博得了经久不息的掌声,终非常得意。但他突然发现,其中有一个人没有鼓掌,他顿时大发雷霆。终问:“ 你为什么不鼓掌?”此人答曰:“我的肺炎已经治好了。”

㉝『正直者こそ馬鹿を見る』
牢獄で二人の囚人が互いの経歴を紹介しあっていた。
「政治的犯罪で捕まったのか?」
「もちろん。俺はショベルカーの運転をしてるんだ。それで委員会から火神山病院の整備に当たれって言われて現場を見に行った。それで『(土が山のように積まれた)塔みたいな奴のてっぺんは全部平らにのさないとダメっすね』て言ったら7年の刑ってわけだ。」

解説

塔の音は「とう」、党と同音。日本語にする際、このように訳した。
原文では「山頭」を平らにする必要がある、という文である。この「山頭」は山頂の意味もあるが、党派、派閥、セクトという意味もある。
火神山病院は、武漢の新型コロナウイルス治療の中心的な医療機関で、2020年は中国全土から支援要員が送り込まれた。

原文

监狱里两个囚犯正交流经验。
-“你是因为政治犯罪被捕的么?”
-“当然。我是个挖掘机司机,被委员会叫去修火神山医院。我看了看,说,‘整个山头都该平了’,于是我就被判了7年。”

㉞『生き馬の目を抜け』
ある囚人が収監された理由を他の囚人に説明していた。
「全部俺が怠けモンだったのが仇となったんだよ。」
「勤務態度が消極的ってやつか。」
「いや、俺と同僚はグループチャットで武漢肺炎について議論してたんだ。俺は翌朝相手を通報すりゃ間に合うと思ってた。奴が俺より一歩先を行くなんて思いもよらなかったんだよ。」

解説

武漢の実際の状況をレポートした一般市民も逮捕される(実際)中国では無論こういうブラックジョークも生まれるだろう。中国ではウイルスだけでなく、言論や表現規制もまた強く国を覆っているのだ。

原文

一个犯人向另一个解释他入狱的原因。 “都是因为我太懒了。”
“消极怠工?”
“不是,我和一个同事在群里讨论了武汉肺炎,我以为明天早上到网警那里去举报他还来得及,谁想他比我先行一步。”

㉟『原因の変異』
肺炎が広まり始めたころ、監獄で囚人が三人、それぞれ捕まった原因を話していた。
一人目「感染症のことを報告したからだよ。」
二人目「感染症について隠ぺいしたからだよ。」
三人目「俺はネット警察だ。」

解説

中国の警察はネットの内容を取り締まりも正式な職務と警察法に記されている。

原文

肺炎开始时牢房里关了三个人,彼此间谈起坐牢的原因。
第一个人说:“我因为通报疫情。”
第二个人说:“我因为瞒报疫情。”
第三个人说:“我是网警。”

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