バンク・オブ・仏陀の道

第04回

ベンガル人仏教徒バルワ族

 翌日バンダルバンのある広陵地帯を後にして、シャンガプリヤ僧侶のテリトリー、ポテヤという街に移動した。チッタゴンシティーから南に約20キロ、人口50万ぐらいの大きな街だ。
 それにしてもうだるような暑さだ…むぅ~とする熱気、吐き気がしそうな生ゴミの悪臭。バングラの大きな街にいると頻繁に、腐った酸っかい強烈な匂いに襲われる。街のあちこちに人の背丈より大きい巨大な鉄のゴミ箱が設置してある。しかしどのゴミ箱も中に入ってるゴミより外に溢れてるゴミのほうがはるかに多い…。

 バングラディシュに暮らすベンガル人仏教徒をバルワ族と呼ぶ。そのバルワの僧侶であるシャンガプリヤの寺は静かな住宅街にあった。バルワの人たちが多く暮らしている。寺の横にアシシュの奥さんの実家があり親族ともに親密な関係がうかがえる。
 お寺は現在新築工事中のためすぐ横に小さな仮店舗…いや仮寺?の様な臨時の小屋で、寺の業務を営んでいた。すぐ横に大きなビル! いや、寺院を建設中だった…。
 2年ほど前から着工が始まったらしいが、あと2年で完成させたいという。あいさつもそこそこ、なぜだか分からないが、シャンガプリア僧侶が自ら建設中の地上5階建てのビル! いや寺、を詳しい解説付で俺を案内しはじめた。言われるままに着いて行く「え~ここが本堂でぇ~、ここが事務所。それから修行僧の寮にゲストルームでぇ」などなど……。
 そこで俺はちょっといやみな質問をしてみた。「これじゃお金がいくらあっても足りないでしょう?」僧侶が答える「いや~四方サンガジャパンに期待してますよ~」と上目づかいでうったえる。やっぱそうきたかぁ……まさに期待を裏切らない答え。そこで俺はバングラディシュに来る数日前、タイの寺でのある出来事を話すことにした。

「今年タイで行なわれた、四方サンガの国際シンポジウムは、地元の寺院の施設を利用し、さらに参加者全員が宿泊させてもらうことで予算を有効に使う方針をとったんです。それなのにそこの住職ときたら、最終日には高額な布施を要求してきましてね~。そこでわれら四方サンガのボス井本さんは、”タイの寺では信者から集めた布施で自分の寺を大きくすることばかり考えてる…本末転倒だ!”って一喝したんですよ。」
 と!言ったとたんにシャンガプリア僧侶、沈黙…。 
 それにしても理解できん…なんでこんなばかでかい寺が必要なんだ……
「俺はぜってえ寄附なんかせんぞ~」

 ビル! いや寺院ツアーの後は、全員で2箇所めのブッタバンクをスタートするためシャプラという村に移動した。シャンガプリア僧侶が以前、修行したというラウチックという寺にバルワの人たちが集まった。
 融資の申し込みするメンバーは5人、全員が働き盛りの男性。この日も僧侶を中心にそれぞれが熱っぽく語り、ブッタバンク及び、地域通貨の説明もあり順調に進んだように見えた。
 俺はアシシュに利息の代わりになる会費について、どうなっているか聞いてみた。アシシュ「一月5タカでどうだ?」と、さもちゃんと考えてたかのように答える……5タカと言うと年間で60タカ(約85円)0.5%、ちょと安すぎないか…?
 とりあえず「いいです。」と俺は答えた。アシシュめ、、
 てきとうくさい、ぜってえ今思いついたな~、、。
 詳細もなぜか示し合わせたように、5人全員が15000タカ(約2万)の借り入れ、そして3ヶ月後からの1年払い。さらに何かしら新らしいことを始めるのではなく、みな定職があるというのだ。薬品関係、食料油、豆の精製などなど。監視運営にあたる、地域のブッダバンク実行委員の選定はどうなってるか聞くと、金を借りに来た5人全員が実行委員になったという!「え~!ほんとに…?」 本人たちには伝えてあるのだろうか……

 何処の世界に金を借りた人間が同時に集金する側の人間になるんだ!…そんなのありかよ。
 …坊さんもアシシュも…あまり……いやいや…全く深く考えとらんのでは。

 すべてが終了してから、はげしい議論に「なぜ自立、独立のための支援なのにみんな定職を持っている? なにか新しく始める人はだれもいないのか?なんで女性がいない?」俺は、半分感情的に不満をぶちまけた。
「女性こそ自立して持続できる仕事が必要なはず。男と違い彼女たちはどんな時でも子供や家庭を守ってる。あれじゃただの生活支援だ。野郎どもの借金の返済に使って終わりじゃないか」
 それにたいし彼らは言う「ここはイスラムの国だから仏教徒といえど女性に仕事は無い。それに貧乏で大変だから女に金を貸したってどうせ返ってこないよ。今回のブッタバンクだって半分は返ってくるかどうか」と悲観的な答「だからこそ、それを変えて教えていくのがあなたちでしょ。そういう努力をする気はないのか?アウンのところは、出来てるだろう」
 最後にアウンが代弁して言う「今回はスタートで始めたばかりだからいいでしょう、しかし次回からは是非女性にも貸せる状況を作って欲しい、お願いします。」と。

 …本来の主旨、理想からずれていく現実、認識の違い、温度差を痛感した…。

 夕方、チッタゴンに移動、アシシュの家に泊めてもらうことになった。彼と彼の奥さんがあれこれ世話を焼いてくれた。久しぶりに日本語での会話、以前日本に長く住んでたので、日本語が憎たらしいぐらいフルエントリーなのだ!「結構、いいやつかも??」

 夜雑談してるなかで日本の僧侶と仏教の違いなどを、しつこく聞かれて答えに困った。「なんで日本のボーさんは結婚して子供まで作ってんだ…?」とか「なんで日本の坊さんは酒を飲むんだ…?」とか… etc
「じゃあなんでバングラの坊さんはいつも高い所に座ってるんだ?」と切り返す俺「なんで施しを受けるだけで、なにもしない…?」だからイスラム教やキリスト教に改宗されちゃうじゃないのか、とか etc etc
 深夜アシシュの家。恐れていたことが、案の定バングラ名物の停電。扇風機も止まり、部屋の中はサウナ状態に! そしてモスキート攻撃、蚊よけを張らずに寝てしまった… 
 めちゃくちゃかゆい~~10箇所以上やられたかも
 …明日からはホテルに泊まろう…

コラムニスト
伊勢 祥延
1960年北海道生まれ。中学校を卒業と同時に美容師の道に進む。31歳の時に独立。同時に写真作家として活動を始め、以来世界50カ国以上を撮影して回る。主に難民や少数民族などにフォーカスを合わせたドキュメンタリー映像を製作「写真ライブ」と名付け各地で上映会及び講演を行っている。最近では東日本大震災で、被災者との交流や復興の様子を記録した映像を発表し話題を呼んだ。書籍の他に、2007年から毎年チャリティカレンダー(発行部数約2万部)を製作。主益金は四方サンガによりアジアの貧困地や被災地への緊急支援に使われている。写真集:Scenes (自費出版)TRIVAL VILLAGE(新風舎)カンボジアンボイス(四方僧伽)リトルチベット(集広舎)子どもを産んで、いいんだよ(寿郎社)
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