パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第84回

社会的連帯経済に関する国連事務総長の報告書──各国の公共政策でできること

 社会的連帯経済に関しては、2023年4月18日の国連総会で推進決議が採択されてから3年が経過していますが、そのような状況を踏まえてアントニオ・グテレス国連事務総長の名で報告書が発行されました(英語版)。今回は、この報告書の内容を踏まえて、国連決議の採択以降の世界的な動向を読み解いてゆきたいと思います。なお、報告書では国連諸機関や金融機関の動きも取り上げられていますが、この記事ではあくまでも各国政府(一部地方政府)による政策を取り上げてゆきたいと思います。

 本報告書では、2026年7月24日現在での進展状況をまとめたものですが、そこではまず社会的連帯経済関係の法制度の整備や改訂(ブラジル、コスタリカ、スペイン)、社会的連帯経済団体の認定基準の制定(メキシコ、ルーマニア)、社会的連帯経済団体の法人格の取得支援(エクアドル、ベトナム、スロベニア、日本: 日本については2022年に施行された労協法関連のもの)、行政や監督の体制改定(カメルーン、ボリビア、チリ、アルゼンチン、マリ、トルコ、コロンビア、エクアドル、モーリシャス)、連合会の認定(ベルギー・ワロン地域、カボヴェルデ、ウルグアイ、ヨルダン)、国内の調整(韓国、セネガル、フランス)、社会的連帯経済団体による雇用の状況改善(フランス、イタリア)、社会的連帯経済法の採択(コートジボワール、韓国(報告書作成後の8月20日に可決)、モンテネグロ、モロッコ、スロバキア、ベナン、カボヴェルデ)、国家・地域戦略計画の制定(フィンランド、ラトビア、カナダ・ケベック州、コートジボワール、イタリア、コロンビア、ルクセンブルク、グアテマラ、イラク)、そして社会的連帯経済に属する特定法人法(チェコ、フィジー、ヨルダン、ブルンジ、ラオス、インド、サウジアラビア、トルコ、バヌアツ、ザンビア、フィリピン)が紹介されています。

韓国国家法律情報センターのサイトに掲載された
社会的連帯経済基本法の文面韓国国家法律情報センターのサイトに掲載された
社会的連帯経済基本法の文面

 また、金銭面および非金銭面での支援制度も整備している国もあります。スペインは社会的ケア経済向けに25億ユーロ(約4480億円)以上を拠出して4400団体以上に便宜を提供し、インドネシアは農村や都市の協同組合支援のためにデジタルシステムや配送網、資金調達などの支援を準備しており、カナダ・ケベック州は業務支援や融資などの予算として、2025~2030年度に1億4190万カナダドル(約158億円)を確保しています。この他、アルバニアやアイルランドは社会的企業の発展目的で、そしてポルトガルは社会的連帯経済団体に向けて公的資金を拠出しています。イタリアやマリ、そしてモンゴルは事業体の共同保有モデルを推進する制度を導入し、メキシコやセネガル、韓国やポルトガルは公共調達や税制優遇を導入し、オーストラリアは先住民による社会的企業の運営支援を、トルコは協同組合向けに機材や人材などの支援を行い、そのほかにもモロッコやトーゴは女性による協同組合を、キプロスは障碍者による社会的企業を、そしてウガンダは開発が遅れた地域や脆弱層による農協向けに価値創造のサポートを行っています。

 また、社会的連帯経済そのものを直接対象としていない政策に、社会的連帯経済を関連付ける試みも行われています。マレーシアでは国家政策の優先課題に社会的経済が入っており、英国のスコットランドでは地域の富構築法により、協同組合や社会的企業などの発展のための計画作成を明示しており、コロンビアでは協同組合を通じた農業の開発が模索されています。パレスチナでは雇用戦略の一環に協同組合が入っており、キューバでは農協や森林組合などの組合員が社会保障の対象になっています。女性によるケア関係では、コロンビアやモロッコ、スリランカやインドのテランガーナ州で法制度や政策が整備され、ジブチやグアテマラ、そしてペルーでは生産支援の政策が実施されています。スペインやウルグアイでは学校教育で協同組合を取り上げ、チリでは文化活動の協同組合への支援が行われています。また、イタリアやマラウィ、そしてスペインでは環境保護の担い手として社会的経済の事例をみなす方向性も示されています。他にも、ソーシャルイノベーションの観点から協同組合をとらえるという面白い動きも存在しており、ルクセンブルクやドイツ、マレーシアやフィンランド、そしてブルガリアではソーシャルイノベーションの一環で協同組合や社会的企業が取り扱われる政策が実施されています。さらに、フランスやスペインでは社会的経済についてのサテライト統計作成が、ホンジュラスやドミニカ共和国、ケベックやスコットランド、インドやコスタリカでは協同組合関係の、そしてケニアや英国では信用組合関係の統計作成が進んでいます。

 これに加え、社会的連帯経済分野での国際協力も進んでいます。社会的連帯経済に関する友好国グループがILO内で立ち上がり、執筆時点で22ヶ国とワロン共同体(ベルギーのフランス語圏)が加盟しています(アジアからはウズベキスタン、韓国、パレスチナとレバノンが参加)。また、地域機関としてはイベロアメリカ首脳会議(スペイン・ポルトガルと中南米諸国などが参加する会議)が加盟国政府間での協力ルートを制定し、アフリカ連合で社会的連帯経済分野で各国の政策の調整が始まっています。

社会的連帯経済に関する友好国グループのサイト社会的連帯経済に関する友好国グループのサイト

 以上を踏まえて同報告書は、加盟国に対して以下の事項を奨励しています(国連内の諸機関や金融機関への奨励事項はここでは省略。5に関しては、加盟国のみならず国連諸機関などに対しても)。

  1. 各国の状況を考慮した上で、明確な責任を定め、社会的連帯経済の主体が政策立案、実施、モニタリングに参加できるような、一貫性のある法的、政策的、制度的措置を通じて、社会的連帯経済の性質と多様性に合致した好ましい環境を確立または強化すること。
  2. 財政措置や公共調達措置、教育・研究、能力開発、組織開発、資金調達、市場、技術へのアクセスを容易にする措置などを通じて、社会的連帯経済に対する財政的および非財政的支援を強化し、こうした支援の範囲と成果をモニタリングすること。
  3. 雇用、社会保障、ケア、住宅、農業・食料システム、エネルギー・気候変動対策、文化・クリエイティブ経済、資金調達・投資、地域開発に関する戦略、政策、プログラムを含む、持続可能な開発のための関連する各国および各分野の戦略、政策、プログラムに、社会的連帯経済とその団体を統合すること。
  4. 社会的連帯経済の価値観と原則に合致するソーシャルイノベーションを促進すること(社会的連帯経済の団体による社会的に画期的な解決策の開発と実施の支援も含まれる)。
  5. 社会的連帯経済に関する統計を改善すること(必要に応じてテーマ別統計の作成を含め、第21回国際労働統計家会議に提示されたロードマップに基づき、社会的連帯経済に関する統計に関する国際ガイドラインの策定を支援することが含まれる)。
  6. 社会的連帯経済が2030年以降の持続可能な開発を推進するための関連多国間プロセスにどのように貢献し、どのような役割を果たすことができるかを検討すること、および2030年以降の開発アジェンダの策定において社会的連帯経済に十分な配慮を払うこと。
  7. 加盟国に対し、地域ネットワークへの参加や南南協力および三角協力への取り組みを含め、国連内外の関連する場で協力し、優良事例や教訓を交換すること、およびこの点において、社会的連帯経済に関する友好国グループの設立に留意すること。

 以下、私見を述べたいと思います。

 国連というと遠い存在のように思えますが、日本も加盟国である以上、上記の奨励事項は当然ながら日本も対象になっています。日本では、政治家や閣僚、そして霞が関官僚の間でもまだまだ社会的連帯経済の認知度は非常に低いと思いますが、このような国際的な流れを伝えたうえで、日本政府にも何らかの政策を打ち出すよう要請することが大切だと言えるでしょう。また、永田町や霞が関というと遠い存在に思えますが、地方自治の現場でも基本的に同じことが適用できますので、場合によっては都道府県や市区町村に対しても同じような訴えかけができるかもしれません。

 その点で参考になるのが、韓国で8月20日に可決された社会的連帯経済基本法です。同法の詳細については次回の連載で取り上げたいと思いますが、フランスやスペインなどの同種の法律と比べると、「社会的価値の実現」(第2条第1項)という表現に見られるように、社会的連帯経済よりは社会的企業を意識した内容になっており、多少方向性が異なるように私は感じますが、社会的連帯経済という概念を韓国の法制度内に確立し、この概念を意識した政策運営を韓国政府に義務付けたという点では同法の意義は大きく、今後の日本にも参考になることでしょう。ただ、韓国では、もともと日本と同様に協同組合も分野別に法律がバラバラだった状況から2012年に協同組合基本法が制定され、今回の社会的連帯経済基本法の下地になったことを考えると、もしかしたら日本でも、社会的連帯経済基本法の前に協同組合基本法を整備するところから考えたほうがよいのかもしれません。

 社会的連帯経済基本法の整備が難しい(労働者協同組合法の成立までにかかった時間を考慮すると、それこそ30~50年ぐらいかかる可能性もある)ことを考えると、短期的そして中期的には社会的連帯経済を構成する各団体、たとえば労働者協同組合や社会的企業の育成につながる政策を推進してゆくことが、現実的なものかもしれません。とはいえ、その点だけに焦点を当てすぎると、社会的連帯経済という幅広い生態系に意識が行かず、あくまでも各分野だけが発展することになってしまうので、同時に社会的連帯経済という概念そのものを日本社会に広げてゆく必要があるでしょう。

 事例などに関する国際交流に関してですが、欧州連合(EU、2023年に社会的経済アクションプランを採択)やアフリカ連合(AU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)のような地域連合組織に日本は加盟していないため、そういう枠組みを通じた域内国際協力や交流の可能性は正直なところ、そこまで高くないでしょう。ただ、日本はアジア太平洋経済協力(APEC)や経済協力開発機構(OECD)には加盟しており、実際OECDは社会的連帯経済関係の勧告文を発表したことがあり(詳細はこちらで)、さらにAPECの中にも社会的連帯経済に比較的熱心な国々(具体的には韓国、カナダ、メキシコなど)がありますので、そういう国を中心として同様の枠組みを作ることはできるかもしれません。さらに、国際協力事業団(JICA)を通じた国際協力においては日本は長年の実績があるため、JICAを通じて日本の事例を諸外国に伝えることはできるのではないでしょうか。

 社会的連帯経済は、国連や各種国際機関においてもその存在感を増しつつあります。日本ものそのような世界の流れに留意しつつ、採り入れられる部分は貪欲に取り入れてゆくことが大切ではないでしょうか。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。