玄洋社を究めるための資料ガイド

第01回

幡掛正木発行人『玄洋社社史』玄洋社社史編纂会 大正6年(1917)/『復刻版』葦書房 平成4年(1992)

悪意をもって欧米に紹介された玄洋社

『玄洋社社史』復刻版、葦書房、平成4年(1992)『玄洋社社史』復刻版、葦書房
平成4年(1992)

 本書は自由民権運動団体である玄洋社の社史である。玄洋社発足から大正5年までの活動状況が述べられている。第一篇から第五篇、全36章、730頁余という大部の構成となっている。現在、初版本を入手することは難しく、古書でも相当な金額になっている。

 しかしながら、平成4年に復刻版が刊行されたので入手は可能。それでも、税抜き1万4000円はするので、多くの方は図書館での閲覧になる。そのためか、読了することを途中で諦めてしまう方がほとんど。更に、復刻版の頁をめくってもらうと分かるが、旧版をそのまま撮影して製版しているだけで、文体も当時のまま、誤記誤植の訂正、補記もなされていないので、読みづらいのは確かだ。
 復刻版は書肆心水社からも出版されている。旧版の複写ではなく、新漢字・新仮名遣いによる翻刻(新たに文字組み)なので、葦書房版より読みやすい。価格も税抜きで7900円とまずまず手頃だ。

 本来、『玄洋社社史』の加筆訂正版、続編が出ていてもおかしくはない。しかしながら、玄洋社は昭和21年(1946)に超国家主義団体と認定され、GHQ(連合国軍総司令部)に解散を命じられている。大東亜戦争(太平洋戦争)に敗北した日本は、絶対的権力者である連合国軍の占領統治下にあった。ゆえに、加筆訂正、続編が出版されることもなく現代に至っている。

 玄洋社といえば総帥ともいうべき頭山満(1855~1944)が著名だが、『玄洋社社史』が出版されて後の大正6年から頭山満が存命した昭和19年までの「玄洋社社史」が無いために体系的な研究が進んでいない。GHQによる永年の言論弾圧下、ようやくにして頭山満に関しての書籍は刊行されるようになったが、それだけでもヨシとしなければならないのだろうか。

 また、玄洋社といえば「右翼」「秘密結社」の類いのように見られているが、これはGHQの調査分析課長であったカナダの外交官ハーバート・ノーマンの悪意によってレッテル貼りをされた結果だ。玄洋社の「玄」は黒いという意味があり、「洋」は海洋を示す意味になる。そこを逆手にとって「ブラック・オーシャン・ソサエティー(Black Ocean Society)」と表現した。これはハーバート・ノーマンが著した『日本政治の封建的背景』の英語原文でも確認できる。欧米人が英語原文を読めば、玄洋社は闇の地下組織と認識するように仕向けられている。良識ある人であれば、地下組織が社史を出版するわけがないと容易に判断できるのだが。

 いずれにしても、修正点、改正点などが多々ある『玄洋社社史』だが、大枠として自由民権運動団体玄洋社を理解する一助になる。

コラムニスト
浦辺登
歴史作家・書評家。昭和31年(1956)福岡県生まれ。福岡大学ドイツ語学科在学中、ベルリンの壁を単独で越えた体験が文章を書く動機づけになる。新聞や雑誌にコラム、書評を寄稿。一般社団法人「もっと自分の町を知ろう」会長として歴史講座、史跡巡りツアーを主宰。講演、編集企画などを行う。著書として『玄洋社とは何者か』『霊園から見た近代日本』『維新秘話福岡』『勝海舟から始まる近代日本』などがある。インターネットの九州プリンシパルTVの「玄洋社チャンネル」で定期的に玄洋社について語っている。